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10年ぶりのJ1復帰は実現せずとも。
ヴェルディとロティーナの上昇曲線。
posted2017/11/30 07:00
text by
海江田哲朗Tetsuro Kaieda
photograph by
Tetsuro Kaieda
音もなく、そろっと記者会見室に入ってきたロティーナ監督が席に着き、隣に通訳の小寺真人が座る。
感情を読み取れない顔だ。ややむすっとして見えるが、それはいつものこと。
試合で勝っても負けても、表情や所作は一切変わらない。以前、ロティーナ監督は「勝ったときはとてもうれしく、幸せな気持ちになります。だが、会見のような公の場で笑顔を見せるのは、対戦相手にリスペクトを欠く行為です」と話した。逆もまたしかり。この人物の流儀である。
11月26日、2017 J1昇格プレーオフ準決勝、アビスパ福岡対東京ヴェルディ。14分に山瀬功治のゴールで福岡が先制し、東京Vが追う展開となった。プレーオフはレギュラーシーズン4位の福岡にアドバンテージが与えられ、5位の東京Vは勝たなければ昇格の望みが絶たれる。この時点で2点が必要となり、苦境は深まった。
リーグ最少失点の福岡の守備は統率され、付け入る隙を見せない。打開を試みる東京Vは後半に入って攻撃の手数を増やし、チャンスをつくりかけるが、かすかに漂ったゴールの予感も、予感のまま終わった。
今季、チームトップの18得点を挙げたドウグラス・ヴィエイラ、17得点のアラン・ピニェイロは不発。躍進の原動力となったブラジル人コンビが得点はおろか、ただの1本もシュートを打てなかったことが、このゲームを象徴していた。
「まず、ヴェルディの選手たちを祝福したい」
敗軍の将は、静かに語り始める。
「まず、はじめに東京ヴェルディの選手たちを祝福したいです。今季、彼らはとても素晴らしい仕事をしてくれました。試合後、泣いている選手や下を向いている選手もいましたが、シーズンを通して考えれば顔を上げるべきだと思います。決勝に進出した福岡のことも祝福したい。また、今日のような難しいゲームを裁き、すばらしい仕事をしたレフェリーたちも祝福したいです」
審判員についてもさらっと触れるのが、ロティーナ監督のらしさだ。試合中はジャッジに対して感情を露わに不服な態度を見せることもあるが、根底には他者の仕事への敬意がある。