ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
ゴルフボールの軌道を色付けした男。
「米のプロゴルフ成功の理由は……」
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byShotVision
posted2017/11/21 07:00
空中を飛ぶボールの軌道は、把握が難しい。トレースして弾道を描くことは、ゴルフという競技の魅力を驚くほど増加させる。
風の音や、レンズの雨粒は中継の邪魔モノなのか。
「アメリカでプロゴルフが成功している理由は、コンテンツとして魅力的なこと。プレーがエキサイティングであることに加え、データビジネスを推進してそれをより魅力的にしている」(森氏)
各大会、各選手の一打一打の小さな情報をかき集め、ビッグデータとしていずれ有効活用する。肉眼では見えない部分を突き詰める、技術革新がなせる業である。
その一方で、ゴルフの魅力を伝えるためには、テクノロジーの進化だけが有効とは限らない。
森氏の体験談がそれを示す。台湾で行われた女子の大会だった。当地のコースは毎年のように強風が吹き抜け、選手たちを苦しめている。業務に携わる最中、現地の中継が日本での放送よりも風の音を大きく伝えていることに気付いた日本人スタッフがいた。技術的には、風の音をマイクで小さく処理することが可能にもかかわらず、だ。
海外では悪天候時に、レンズに付着した雨水をあえて拭き取らずに撮影することも多いという。
「日本ではすぐに『水を拭け』ということが多いんですけどね」
日本人の丁寧な仕事ぶりは、映像づくりも同様で、プレーヤーの表情をきれいに映すテクニックや生真面目な作業は、もちろん世界に誇れるものだ。ただ、その几帳面さだけで、自然との闘いであるゴルフの面白味、“原点”を表現できるとは限らない。
“優勝への過程の全部”を伝えること。
森氏は日本でのゴルフ中継についてこう指摘する。
「例えば優勝する選手がどう勝ったのか、できるだけ多くのホールを、できれば18ホールを見ていただくことがゴルフ中継の基本なのかと思います。例えばイギリスでの欧州ツアーの放送で、イギリス人が勝たなければ放送が盛り上がらないわけではない。それは“優勝への過程の全部”を、伝えているからなんだと思うんです」