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持ち込んだのは規律だけじゃない。
東京V・ロティーナ監督のJ1昇格計画。
text by
海江田哲朗Tetsuro Kaieda
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2017/11/11 07:00
リーガの名将は、日本でもやはりその手腕を発揮した。ロティーナ監督がヴェルディを昇格させれば、2008年以来のJ1復帰となる。
規律は細かいが、堅物とは違う朗らかなエピソード。
ロティーナ監督は規律の人である。厳格な守備戦術をベースにリーガ・エスパニョーラで20シーズン指揮を執り、'03-'04シーズン、セルタで欧州CLベスト16に進出、'05-'06シーズンはエスパニョールでスペイン国王杯優勝など、輝かしい成果を収めた。
生まれはスペイン北部のバスク地方。勤勉が美徳とされる土地柄だ。
「バスク人は働き者で休まないと言われますが、私はシエスタ(昼寝)も好きですよ。日本人は真面目で、トレーニングに注力しすぎる傾向があります。試合で高いパフォーマンスを発揮するには、きちんと休養をとって疲れを抜くことも重要です」
試合2日前はトレーニングの負荷を落とし、コンディションの調整に努めるのがロティーナ監督のやり方。ときには体力の温存を目的に、日なたに出るのさえ制した。同様の理由で、試合前日は湯船に浸かるのを禁じている。
このように規律にはうるさいが、堅物とは違う。
ある日の練習場、前日九州のアウェーゲームに車で往復したサポーターが見学に訪れていることを知ったロティーナ監督。トレーニングを終えてから、「もし疲れてなかったら、一緒にボールを蹴りませんか?」と彼らをピッチに招き入れた。
「今回のように思いつきでサポーターとミニサッカーを楽しんだのは初めてです。彼らの情熱、行動力に対し、感謝とリスペクトの気持ちを示したかった」と朗らかに笑った。
カタルーニャ独立問題にも節度ある言葉で一言。
現役時代はストライカーだ。20歳の頃、より広い世界を知りたいと地元を飛び出し、さまざまなクラブでプレーした。
「スピードがあまりなかったので、リーガの1部では目立った成果を残せませんでした。若い時分から外の世界を知り、自分はバスク人であり、スペイン人でもあると考えています」
そう語るロティーナ監督は、カタルーニャの独立問題に揺れる祖国に、こんな思いを吐露している。
「両者はもっと対話すべきです。スペインにカタルーニャがなくなるのはよくない。同様に、カタルーニャにスペインがなくなるのもよくないでしょう。今後、話し合って問題の解決にあたっていくことを日本から祈っています。メディアを通して伝わってくる現地の様子は、私にはよいものとは思えません。(FCバルセロナが無観客試合を行ったことについては)本来、サッカーは政治よりも大きな存在です。地域や人々の団結の象徴です。政治に左右されるべきではないと思います」
自身の政治的な立場は旗幟鮮明にしない。それは組織の長としての節度なのだろう。