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国民全員でセリエA誤審を糾弾!?
ビデオ判定の礎は“名物法廷番組”。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2017/11/05 07:00
今季からビデオ判定システムの本格運用が始まったセリエAだが、じつは約40年も前から映像を用いて疑惑のシーンを議論する人気番組があった。
審判としてはミスジャッジが満天下に晒される恐怖。
番組の売りは「モビオラ」と呼ばれるスロービデオ映像だった。
週末の試合で見られた反則判定の正誤や疑惑のプレーをさまざまな角度から撮影し、視聴者にもわかりやすく編集したものだ。判定に不満があっても泣き寝入りするしかなかったオフサイドやペナルティエリア内のファウルについての誤審は「モビオラ」の出現によって、誰の目にも高精度に判別がつくようになった。
自らのミスジャッジが満天下に晒されることを悟ったレフェリーたちは顔面蒼白になったが、論争の火種を得たファンらは敵味方に分かれ、国中の職場や学校、街角のバールでサッカー談義の花が開いた。
おい、昨日の夜の『月曜の法廷』見たか?
ああ、やっぱりあのPK判定は誤審だったな!
『月曜の法廷』は爆発的人気を得て、あっという間に新チャンネルの看板番組の1つになった。
マラドーナやベルルスコーニが“出廷”したことも。
スタジオに招かれた多彩なゲストたちによる活発な議論も番組の大きな特色だった。
番組テーマがミラノ・ダービーの回なら、スタジオには必ずミラン派とインテル派の記者と芸能人が招かれた。激しく罵り合う両陣営を司会者として仲裁するふりをしながら、扇動家ビスカルディは喜々として燃え盛る論争に油を注ぎ続けた。
人の話は最後まで聞きましょう、なんてお行儀良さは彼(や多くのイタリア人)には通用しない。
「一度にしゃべっていいのは3人まで!」
ビスカルディが目指していたのは、真面目一辺倒の報道スタイルや論理的なディベート番組ではなかった。
サッカーは社会風俗の一部なのだ。その議論では、少々品がなくても声のデシベルの大きい方が勝つ。大衆感情に基づいた番組は見事に大当たりした。
ファルカンやマラドーナといった大物選手をはじめ、各クラブの会長たちもビスカルディの『法廷』に勇んで出演した。招きに応じた者の中には、VIP中のVIPであるジャンニ・アニェッリや元首相ベルルスコーニもいた。
地元開催だった'90年W杯イタリア大会期間中、連日連夜生放送された『法廷』には当時のイタリア全国民中5人に1人がかじりつきになったとされている。