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金本監督の言葉使いが変わった年。
ニヒルで抑制的な「良き上司」に。
text by
増田晶文Masafumi Masuda
photograph byNanae Suzuki
posted2017/10/26 07:00
1年目よりも金本監督のメディア露出は大きく減った。しかし自らのスタイルを確立した今年の方が、より「らしい」シーズンだった。
コーチに頼るのではなく、ドンっと任せる。
金本監督の変化は、コーチ陣との関係にも顕著だった。昨季は、自分で判断つかぬのでコーチに頼るというイメージだったのが、今季はドンッと任せる。
「片岡コーチが隼太っていうから。片岡、神のひと声」
「矢野コーチが高山で左対左でもいきましょうと」
新人の大山を四番に据えたときも然り。
「片岡コーチが勇気をもって来たから、こっちも勇気をもたないと」
香田や平野コーチの名もよく出た。
最後は、監督の決断に委ねられるからこそ、コーチもアイディアを進言することができたはずだ。しかも、結果が出たら選手やコーチの功績、ダメなら己の責任とするところなんぞ、金本監督には大将の器が備わってきた。
そんな風評に、彼はしれっといってのけた。
「僕は何もしてませんけど」
若手の育成と成績の難問には、言葉の渋味が増す。
金本監督といえば、鉄人であり、不屈の闘志の男であり、歯に衣きせぬ“毒舌”でもある(解説者時代の、阪神選手に対する辛辣なコメントは、聞いているこっちの顔が引きつった)。それだけに孤高の闘将、険しさ貼りついた顔つきのイメージが強い。だが今季は、彼ならではのユーモアが随所で発揮された。
「倒れそうや。健康に悪いな、こりゃ」(巨人に辛勝)
「悩みなさい、悩みなさい。いくらでも。悩んで自分で探しなさいよ」(不振の高山俊に)
「何かあったんですかね。でも、これで終わらないでほしい」(俊介が1番起用で活躍)
「なぜか太一の打撃になると、古傷の膝が痛くなる。岡崎の打撃練習中、サングラスの裏でずっと眼をつぶってた」
今季初勝利の青柳晃洋には、ハイタッチするとみせかけ、彼の帽子を奪い取る。
「よく2点に抑えてくれたなというね。その前にまずピッチャーゴロはとりましょう」
大山のプロ初安打が本塁打になったときは、打球がフェンスを越えた瞬間に固まり、すぐさまベンチ中に響く雄叫びをあげた。
「あっ、映ってました? 恥ずかしいです」
金本監督は若手を徹底的に鍛えているが、まだ発展途上だったことは否定できない。それでもガマンの姿勢を貫いた。
「使っている以上、こちらが責任を取らないと」
「すんなりいかないのが育成」
「ミスはこっちも計算のうち」
一連の発言には、金本の覚悟のほどが垣間見える。真骨頂はこれだ。
「若手育成は子育てみたいなもの」