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金本監督の言葉使いが変わった年。
ニヒルで抑制的な「良き上司」に。

posted2017/10/26 07:00

 
金本監督の言葉使いが変わった年。ニヒルで抑制的な「良き上司」に。<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

1年目よりも金本監督のメディア露出は大きく減った。しかし自らのスタイルを確立した今年の方が、より「らしい」シーズンだった。

text by

増田晶文

増田晶文Masafumi Masuda

PROFILE

photograph by

Nanae Suzuki

 CS敗退が決まった直後の会見、金本知憲監督は、さすがに少し青ざめてみえた。

 とはいえ、その顔つきと口ぶりは、喜怒哀楽のどれが勝っているわけでもない。極めて平穏なのが印象深かった。

「雨を理由にすると言い訳になりますけど、そうじゃなしに、向こうの打線が調子を上げてきたなと感じました。時の運もあるし、勝負運というか、勝ち運というか。結果がすべてなんで」

 タイガースファン歴48年、私はしみじみと金本監督のコメントを味わった。いかにも彼らしいものいい、アニキならではの万感がこもっているというべきであろう。

 物議をかもした“泥試合”の第2戦、先発が崩れ、適時打が出ない今シーズンの悪いパターンが露呈してしまった第3戦……グチや反省は多かろうが、金本監督はそれらをぐっと胸にしまいこんでみせた。

 私、のうのうと57年も生きてきたが、それなりに苦労はしてきたつもりだ。人間、なかなか金本のようにはいかぬ、とつくづく思う。

 負けて悔しがりすぎず、その一方で、勝ちを歓びすぎず。

 勝利の栄誉は選手とコーチに、だが、敗戦の責は己に。

 2017年の金本監督には、こういった発言や態度が見てとれた。彼は繰り返した。

「上しか見てないし、前しか見ない」

 敗戦の日、最後はこう締めくくっている。「明日、やりましょう」

 昨季の、ふがいない展開に激昂して椅子を蹴とばしたり、選手を名指しして強い調子で叱責するといったシーンが目立って減った。そこに、彼の指揮官としての成長、責任と自覚、プライドを強く感じる。

 金本知憲、ひとまわり人間が大きくなった。

シビアな現実を直視しつつも、ユーモアを忘れない。

「今年も我慢の年になると思う。『我慢に挑む』かな。(優勝なんて)簡単にいくわけがない」

 元旦のスポーツニッポン紙で、金本は抱負を語った。スローガンは「超変革」から「挑む」へ。チーム事情は、若手にまだ盤石の信頼を置けない。加えて、鳥谷敬や上本博紀、大和などベテラン、中堅が不振から立ち直れるのかという不安もある。

 景気よく花火を打ち上げるのもけっこうだが、シビアな現実を直視する監督の姿勢がいい。とはいえ、だからといって新年早々、暗くならないのが金本のキャラクター。辛辣ではあるけれど、フッと力を抜き緊張を緩和させるユーモアのセンスを備えている。

「(昨季、若手がシーズンを通して活躍していたら)横田、江越でガーッと行って足でかき回すぞ……と言えるけど、今は言えないから。そこをみんな分かっていないんだよ(笑)」

 記事からは、金本がガハハと呵々大笑したのか、苦い笑いを浮かべたのかはわからない。しかし私は、彼が眉をすっと上げ、それから眼を細めてみせたシーンを思い浮かべた。

 なんとならば、今季、試合後にそんな表情を浮かべた金本監督を何度もみたからだ。

 ちなみに、日刊スポーツ(1月3日)で語った新年の抱負も紹介しておこう。

「まずしっかりと地力をつけたチームを作りたい。骨太のチームを。2、3年に1度は絶対に優勝するぞ、という土台を作りたい」

【次ページ】 極めつけの一言は「僕が一番優しいんだよ」。

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金本知憲
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