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ボールを持たずともチームを操る。
ジュビロの“俊輔効果”とは何か。
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byGetty Images/J.LEAGUE
posted2017/08/03 11:00
中村俊輔に注目が集まる陰で、川辺や川又らもキャリア最高のパフォーマンスを発揮している。
監督がピッチの上にいるような感覚さえ与える。
二桁得点をマークして横浜FMで優勝争いを演じ、JリーグMVPを受賞した2013年シーズン、俊輔は攻守に渡る献身性を体現していた。
キャプテンマークに込められた新たな重責がモチベーションとなり、ピッチで奮闘したシーズンだった。いつの日か訪れるだろう現役引退を迎えるのも横浜の地だと誰もが考えていたし、俊輔自身もそうだったに違いない。
それでも、人生は何が起こるかはわからない。クラブの経営方針が変わり、2017年1月に磐田への移籍が発表される。
38歳で初めての国内移籍。大きな挑戦で気負う部分もあっただろう。成績が向上しないなかで模索を続けながら、俊輔はジュビロ磐田での居場所、仕事を見つけた。自身が持つ技術やプレー能力だけで先頭に立ってチームを引っ張るのではなく、一歩引いた場所でチームメイトの良さを引き出し、チームを修正する。そんな俊輔の存在は、まるで監督がピッチにいるような感覚さえある。それは、彼の仕事を尊重する名波監督の望む形でもあるのだろう。
“俊輔効果”は確実に存在する。
10年前と同じようにはできなくなったプレーもあるかもしれない。しかし、10年前には見えなかったものが、今は見えるということもあるだろう。
新天地で新たな“勉強”ができているという俊輔。状況に順応するための術を見つけて、それに力を尽くす。思考を転換する巧みさが、中村俊輔を今なお進化させる。
そして、この川崎戦前半での勝ち越しにつながるコーナーキックを蹴ったのは、もちろん俊輔だった。キックの精度の高さは健在だ。
磐田の快進撃の行方や結末がどうなるかは今はまだわからない。
けれど川辺や川又、アダイウトンをはじめ、俊輔と共にプレーした多くの選手に成長する機会が訪れることは間違いない。
試合終了後、等々力のアウェイスタンドを埋めたジュビロサポーターのもとへ挨拶へ行き、ロッカーへ戻るまでの間、俊輔は途中出場の松浦拓弥とずっと話し込んでいた。サッカーの話をしているだろうことは彼らの真剣な顔を見ればわかる。ここにも“俊輔効果”が表れていた。