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ボールを持たずともチームを操る。
ジュビロの“俊輔効果”とは何か。 

text by

寺野典子

寺野典子Noriko Terano

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photograph byGetty Images/J.LEAGUE

posted2017/08/03 11:00

ボールを持たずともチームを操る。ジュビロの“俊輔効果”とは何か。<Number Web> photograph by Getty Images/J.LEAGUE

中村俊輔に注目が集まる陰で、川辺や川又らもキャリア最高のパフォーマンスを発揮している。

ボールを持たずともチームを動かす司令塔に。

 ゲームが切れると、周囲の選手と話す俊輔。その会話が濃厚であることは、俊輔の手の動きや、ジッとそれを聞くチームメイトの様子から伝わってくる。

「見えやすいからかな。とにかく気になることがいっぱいあるから、それを伝えている。たとえば、どうしても右からの攻めが多くなる。それはアダのポジションが高いからだけど、守備をしろ、戻れと常々言っている。それは守備のことだけじゃなくて、戻るという意識を持って『低い位置からスタートしたほうがお前の良さが出るから、戻って前を向け』と。その選手の良さが出やすいフォーメーションがあるから」

 試合の流れ、相手の状況……それを見ながら、俊輔がチームを修正する。パスでチームを動かしてきた司令塔は今、ボールを持たずとも、チームやゲームをコントロールする指揮官となった。堅守速攻というスタイルで強敵を倒すうえでは、前線でボールをキープできる「川又とアダの存在は大きい」と俊輔はいう。

 その俊輔は以前、「ジュビロの選手は真面目だし、純粋なんだ」とも話していた。

「今日、名波さんがホワイトボードに『泥臭く』って書いた。きっとそんなの書きたくなかっただろうけれど、川崎相手じゃしょうがない。あれだけいい選手が揃っているチームなんだから。そこは腹をくくって、覚悟を決めてやらないといけない。

 選手個々の能力では、完全に向こうのほうが上だけど、僕らは能力の強くないところを隠しながら、2を3にする作業が良くなっているし、これからも良くなると思う。変な欲を見せるキャラの選手はいないしね。ひとつひとつという感じで、実直にやっていけばいい。能力が低くとも、結束力は強いから」

「面白い試合だったね。弱いチームが勝つのは」

 そんな俊輔の言葉を聞きながら、思い出した彼の言葉がある。

「『ファインディング・ニモ』じゃないけど、小さな魚でもそれがひとつになることで、大きな魚を倒すことはできるんじゃないかな」

 そう語っていたのは、2006年のワールドカップドイツ大会前だ。世界の強豪国相手に個の能力で劣っても、組織力でそれをカバーできると俊輔は考えていた。

 記者の輪が崩れ、ミックスゾーンをあとにする俊輔に「今、磐田でやっている作業は、世界と戦う日本代表と同じなんじゃないか?」と訊いてみた。

「うん。それに近いところはあるかもしれない」と同意したが、彼の思考はすぐに現在に戻ってくる。

「アダと川又が孤立してしまうと、彼らの力が発揮できない。孤立させないというのは、近くに寄ることばかりじゃなくて、離れていても2人の良さを一瞬で引きだすことはできるはず。それにしても今日は面白い試合だったね。弱いチームが、強いチームに勝つっていうのは……」

【次ページ】 監督がピッチの上にいるような感覚さえ与える。

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