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必要な時に、どんな相手からも――。
ダルビッシュ有、至高の「奪三振力」。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byGetty Images
posted2017/07/13 14:30
全米でもトップランクのピッチャーとして注目されるダルビッシュ。今季限りでFAとなるということで、その去就も注目されている。
そのイメージは……「豪快な奪三振王」とは異なる!?
「アメリカに来たばかりの頃は実力を証明するためにどんな場面でも三振を取りにいっていたこともあった。でも今は必要な場面でしか狙わないんだよ」
今回、ダルビッシュの「奪三振学」について原稿を執筆したスポーツライター四竈衛氏が解説してくれた。
メジャー取材歴20年の視点に間違いはないだろう。
ただ、メジャー100年以上の歴史で頂点に立つ男の姿を期待していた私は記者席で少なからず物足りなさを感じていた。正直、機上でつくり上げてきた「豪快な奪三振王」のイメージからはほど遠かった。
だが、1-3と味方打線が1点を返した直後の5回裏1死三塁、ダルビッシュが突然、牙をむいた。
本当に欲しい場面でこそ、キッチリ三振をとる。
3番ブラントリー、4番エンカルナシオンをトップギアの速球で連続三振。
これ以上の失点も、バットに当てられることすら許されない状況で相手チーム最高の打者を斬って捨てた。それまで快勝ムードに浸っていた敵地が静まり返り、不穏なムードが漂った。
それを生み出したのはダルビッシュであり、レンジャーズがこの試合を勝つ上で最も必要なタイミングでの「ストライク・アウト」だった。
いくつ奪ったか、絶対数の問題ではない。
自分が必要な時に、どんなに強力な打者をもねじ伏せる力。それが、この男の「奪三振力」なのだと痛感させられたシーンだった。
ダルビッシュは6回3失点、6奪三振でマウンドを降りた。
結局、打線は反撃できず、チームは敗れた。
試合後、ロッカールームとベンチをつなぐ階段の踊り場で先発投手の囲み取材が行われた。レンジャーズのエースを追っているのは日本のメディアだけではない。「ビート・ライター」と呼ばれるテキサス地元メディアの番記者たちも囲みの最前列に顔を出す。
さぞかし、張り詰めた空気なのだろうと思いきや、私はここでも予想を外された。