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必要な時に、どんな相手からも――。
ダルビッシュ有、至高の「奪三振力」。
posted2017/07/13 14:30
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Getty Images
6月下旬、アメリカ北東部クリーブランドに向かう空の上で、伝説の豪腕たちが頭に浮かんでいた。
ランディ・ジョンソン。208cm、102kgの巨体から“ビッグ・ユニット(大いなる物体)”の異名を取った怪腕は、164kmの豪速球と見えないスライダーで打者を翻弄した。
ペドロ・マルティネス。160km近い速球と高精度の変化球を自在に操った右腕は‘99年、レッドソックスでシーズン23勝、313奪三振、WHIP0.92を記録し、あのイチローから「完璧な投手」と評された。
ノーラン・ライアン。1970年代、異端と言われたトレーニング法で投手革命を起こした男はメジャー歴代最多5714奪三振という不滅の記録を持っている。
「ただいまより消灯させていただきます」
そして機内アナウンスが流れる中、最後のイメージとして出てきたのは馴染みある男の顔だった……。
ダルビッシュ有。
日本球界が生んだ稀代のパワー・ピッチャーは500投球回を超えた中でメジャー歴代最高の奪三振率を誇っているというのだ。
9回を投げて11.07個を奪う。
それはランディの10.61より、ペドロの10.04よりも上なのだ。
その事実は、これから単身、異国に向かう1人の日本人にとって、とても誇らしい自分だけの秘密のようでもあった。
味方のミスでピンチを招いても、淡々と。
クリーブランドのホプキンス国際空港から約30分、ダウンタウン中心部にあるインディアンスの本拠地プログレッシブ・フィールド。夕闇迫るそのマウンドにダルビッシュはいた。相手は昨季のリーグ王者で、特に打線は曲者ぞろい。メジャー最強の奪三振王を目撃するには絶好の相手だと内心、喜んでいた。
初回、先頭打者の平凡なフライを左翼手が取り損なった。プロのレベルでは考えられないようなミスでピンチに立たされた。ただ、ダルビッシュは淡々と捕手のサイン通りにカーブやスライダーで緩急をつけながら、丁寧に投げていた。初回に1点、3回に2点を失っても無理に三振を奪いに行くような素振りは見えない。