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必要な時に、どんな相手からも――。
ダルビッシュ有、至高の「奪三振力」。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byGetty Images
posted2017/07/13 14:30
全米でもトップランクのピッチャーとして注目されるダルビッシュ。今季限りでFAとなるということで、その去就も注目されている。
「もしかしたら最後かもしれないと思ったくらい」
――エラーや打線の援護がないという不運がありましたが。
「そこは僕が打っているわけではないですし、僕ができることではないですから。自分が投げる試合はなるべく長いイニングを投げることだけを考えています」
探るように聞く記者に対し、ダルビッシュは穏やかにそう語ると、さらに自ら心の奥にあった不安も明かした。
「前回投げた後、張りがあったので、今日、本当は投げられるかどうか不安で、もしかしたら最後かもしれないと思ったくらいなんですが」
番記者たちの表情が一気に強張った。
――どこか痛いところがあったのですか。
チームのエースが選手生命が終わる覚悟だったというのだ。前のめりになるのも当然だろう。
するとダルビッシュは突然、いたずらっぽい笑いを浮かべた。
記者たちの表情が少し緩んだ。
――本当にそんな不安があったの?
「本当ですよ。でも、大丈夫です。本当ですから(笑)」
エラーが絡んでの敗戦後、誰も責めず、自分をさらけ出し、最終的に笑顔のうちに囲みを終わらせた。誰も不幸にしない、エースの堂々たる振る舞いだった。
これまでの日本人メジャーリーガーとは異なる風景が。
翌朝、デーゲーム前のスタジアムに行くと、ダルビッシュはもう走っていた。
チームメートと談笑しながらメニューを終えると、試合中は仲間たちの戦いを見守った。登板翌日のエースにも果たすべき義務があるのだ。
翌日には帰国する私にとってはこの日が接触する最後のタイミングだった。だから試合後のロッカールームに彼の姿を探した。
メジャーでは定められた時間内であれば報道陣も自由に出入りが許される。こういう時、日本人メジャーリーガーを探すのはたやすい。なぜなら大抵は日本人スタッフと一緒にいるからだ。だが、いくら探してもダルビッシュが見当たらない。
すると、次カードの開催地シカゴへの移動に備えて食事をしていた3選手の中に彼がいた。通訳も、トレーナーもいない。チームメートと英語で会話している。それは当たり前の日常かもしれないが、完全に溶け込んでいるその姿を見て、マウンドでの仕草や、会見での振る舞いにも合点がいったような気がした。