バレーボールPRESSBACK NUMBER
高さ以前に、日本は技術が足りない。
中田久美が開始したバレー観の革命。
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byAtsushi Hashimoto
posted2017/07/04 11:00
5月下旬の記者会見では「スピード、正確性、連携、けた外れの集中力、世界に負けない強さ」を強化ポイントに挙げていた。
レシーブからスパイクまでの時間を短くする。
重視するのは動きのスピード。単純にトスの速さを上げるのではなく、高めるべきはAパスから攻撃に至るまでの準備のスピードと、切り返しのスピードの速さ。できるだけ速く、高さを出さずにパスを返し、セッターは素早くボールの下に入り、ジャンプトスで高い位置からセットし、スパイカーは相手のブロックが完成する前に攻撃準備をして打つ。
そのスキルと精度を極め、'04年のアテネ五輪で金メダルを獲得した中国のように、速い攻撃展開の中で常に2枚、3枚以上のパターンをつくる。それが中田監督の理想とするバレースタイルだという。
確かに、描く理想通りに展開されれば、相手のディフェンスに対しても攻撃を優位に進めることはできるかもしれない。しかしサーブ力も年々高まる中で、セッターにピタリとパスを返すのは至難の業でもある。攻撃枚数を増やすために1本目のパスは高く上げ、間を使って攻撃に入るのを主流とするチームが世界でも増える中、あえてスピードを武器とする。少しでも精度が落ちればリスクが伴うことは承知の上だ。
「選手がやってきたバレーと真逆かもしれない」
「選手たちが今までやってきたバレーと、私は真逆のことを言っているかもしれない。でも、それはそれでありだと思うんです。いろいろな選択肢、引き出しがある中で、どこを使い分けるか。今までは選手たちの中に、速いテンポのバレーとゆったりしたテンポのバレーを使い分ける技術や考え方がなかっただけで、それがいいとか悪いという問題じゃない。
私は世界と戦うために、この技術や考え方が必要だと思ってみんなに提供しています。状況に応じた対応、応用力を身につけるための『スピード』というストレスをかけて、コンマ数秒の間で判断できる目と脳と体を連携させる、ということであって、『絶対これじゃなきゃダメ』ではないんです。ただ、レセプションアタックは最低限、日本の武器にしないといけない。ここが大きく世界と離れていたら、日本はどうやって世界と戦うのか。ここの差を縮めなければ世界には近づけない。だから当たり前のことを、当たり前にできる技術と体と考える脳が必要なんです」