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負けても再び立ち上がる村田諒太。
哲学者・岸見一郎への告白。 

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photograph byTadashi Shirasawa

posted2017/05/26 11:00

負けても再び立ち上がる村田諒太。哲学者・岸見一郎への告白。<Number Web> photograph by Tadashi Shirasawa

取材をした時の哲学者・岸見一郎(左)と村田諒太。まったく異なるジャンル、30歳の年の差を感じさせない明るく爽やかな対談だった。

幸福は質的なもの、成功は量的なもの。

岸見「三木清という哲学者が『人生論ノート』という本の中で、幸福は質的なもの、成功は量的なもの、と言っています」

村田「幸福が質的、成功が量的?」

岸見「本が何万部売れたとか、ファイトマネーがいくらというような量に換算できないものが幸福だというのです。村田さんの気持ちは、まさに質的なものです」

村田「そうか……ただ、今の僕は、金銭的、量的なものがある程度満たされているから、その恩恵を返したい、と考えられるんだと思うんです。でもそれは皆さんに水を与えられて、それが溢れてきたからそういう思いになれるだけで、もしまだ水が足りなかったら、同じことを言えるのか? 僕という人間の根本は、そんなに綺麗ごとを言えるようなものじゃないんです!」

岸見「でも、今すでに、返しているし、貢献しているのですよ」

村田「そ、そうでしょうか……何もしていない気がして」

「アドラーは『不完全である勇気』という言い方も」

岸見「何もしていなくても人に貢献できる、と感じられることが大事な点です。多分これは教育のせいで、我々は何かができないと貢献できないと思いこまされている」

村田「まさにその通りです! 僕は世界チャンピオンにならないと、サポートしてくれる皆さんに恩返しなんてできない、と思っていました。その考え方もやはり、承認欲求から逃れられていないのか!」

岸見「本当の意味でサポートしてくれている人は、たとえ結果が達成できなくても、それで村田なんてダメだ、とは思わないでしょう。そういう人たちは村田さんの戦う姿勢、生きる姿勢に共感を覚えているのですから、彼らのために戦えばいいのです。それで既に、恩師の先生や周囲にも充分返しておられるのではないですか」

村田「ああ、そういえば先日、小学校の担任の先生から、諒太は俺の自慢の息子だ、と言われて嬉しかったなあ……。でもそういうことを拾い上げていく機会って、こうして先生のような方とお話しするときでもないと、そうそうないです」

岸見「アドラーは、不完全である勇気、という言い方もします。そういう自分を受け入れていく勇気ということです」

村田「不完全である勇気!」

岸見「完全な人はいない。不完全な面も、ありのままの自分を受け入れる。そしてそれができている人に勇気をもらう。アドラーは、勇気は伝染するとも言っています」

【次ページ】 プロ入りしてから村田が悩んでいたこととは?

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