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負けても再び立ち上がる村田諒太。
哲学者・岸見一郎への告白。
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph byTadashi Shirasawa
posted2017/05/26 11:00
取材をした時の哲学者・岸見一郎(左)と村田諒太。まったく異なるジャンル、30歳の年の差を感じさせない明るく爽やかな対談だった。
プロ入りしてから村田が悩んでいたこととは?
村田「プロに来てから悩んでいた時期がありまして。自分にないものを足そう足そう、としていたんです。僕の強みはパンチ力や、ガードの堅さ、前に出る強さやハート。そこに自分にないスピードなんかを足そうとしていた。六角形とかの戦力パラメータがあるとして、それを綺麗な形に整えることに、トレーニングのほとんどを割いていました。でも、それをやめてから内容が良くなってきたんです。結局、パラメータの飛び出しているところで勝負すればいいんだと。それで少し吹っ切れたんです」
岸見「そう、与えられたものをどう使うか、ということですよ」
村田「おっしゃるところの自己受容ですね」
岸見「村田さんは、新しい自分になろうという柔軟さもあるし、本当に色々なことを考えておられる。リングの上の哲学者ですね」
村田「こんな都合のいい哲学者はいないですね(笑)。でも、恥ずかしくてなかなか言えませんが、少しは自分を肯定的に考えて、認めてもいい気がしてきました」
――村田の表情は晴れた。数日後、初の世界戦への記者会見。村田は、今度こそ胸を張って「恩返しをしたい」と誓った。
(Number925号「スポーツ 嫌われる勇気」掲載記事。「村田諒太×岸見一郎『青年拳闘家、哲人学者を訪ねる』」より)
岸見一郎(きしみいちろう)
1956年、京都府生まれ。京都大学大学院博士課程満期退学。西洋古代哲学と並行して'89年からアドラー心理学を研究。精神科医院などで多くのカウンセリングも行う。2部作『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』がベストセラーに。他にも『アドラー心理学入門』など著書多数。
村田諒太(むらたりょうた)
1986年1月12日、奈良県生まれ。WBA世界ミドル級2位。東洋大時代に全日本選手権で2度優勝。一度は引退するも復帰し、'12年ロンドン五輪金メダル。'13年プロ転向し、今年5月20日に同級1位のアッサン・エンダムと世界戦を行ったが僅差で判定負けに。読書家として知られる。182cm、72kg。