ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
村田諒太の敗戦と判定を検証する。
実は亀田戦と同じジャッジが!?
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2017/05/22 13:00
試合直後で判定に納得できない部分もあるだろうに、村田諒太はエンダムにも会見にも笑顔で対応した。心の容量はどうなっているのだろうか。
村田が本当にトップクラスか、試合前は半信半疑だった。
判定への憤りはひとまず置いて、村田の初世界戦を振り返ると、決して落胆ばかりではないことに気が付く。なぜなら村田がミドル級の世界トップ選手だということをしっかり証明したからである。
今回の試合をプレビューするにあたり、頭を悩ませたのは、世界のミドル級トップ選手の中で、村田がどれくらいの位置にいるのか、ということだった。ミドル級の世界タイトルマッチが日本国内で開催されるのは15年ぶりのこと。日本人選手でミドル級世界戦の舞台に立った選手は、過去に5人だけで、世界チャンピオンになったのは22年前の竹原慎二ただ一人だ。
我々には(少なくとも私には)日本のトップと世界のトップの距離を測る材料、経験が乏しかった。村田があっさり勝つような気もしたし、逆に完膚なきまでにやられる姿も想像した。だからプレビューでは世界トップ選手と拳を交えてきたエンダムと、プロではトップ選手との対戦がない村田の経験を比較し「エンダムが有利である」という展望記事を書いた。
相手をリスペクトしすぎた、という面もあった?
蓋を開けてみれば、エンダムのパンチで村田が倒されそうなシーンはなかったし、村田のほうがはるかにパワフルで、パンチのスピードでも上回っていた。村田はエンダムと互角以上に渡り合った。ジャッジ一人が採点したように、見ようによっては完勝だった。採点は負けでも、実力は村田のほうが上に見えた。
エンダムは世界ナンバーワンの選手ではないが、間違いなくトップクラス、つまりはいつでも世界タイトルマッチの舞台に立っておかしくない実力者である。その選手とあのような試合をしたということは、村田はコンスタントに世界戦のリングに上がるにふさわしい実力を持っている、と言えるだろう。
世界トップとの距離は、村田本人も、陣営も、はっきりとはつかみかねていたのかもしれない。陣営は当初、もっと苦戦すると考えていた。本人は試合後「もっと打てるシーンがあってもよかった。(エンダムが)何発か打ったあと休む場面があった。つけ込めなかった反省が残る」と口にした。もう少し大胆にいけば、さらにダウンを奪えたかもしれないし、ノックアウトできたかもしれない。終わったから言えることだが、相手をリスペクトしすぎた、という面があったと思う。