ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
井上尚弥は1分半で距離感を見切る。
米上陸で“世界のスター”にリーチ。
posted2017/05/23 12:20
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
WBO世界スーパー・フライ級チャンピオンの井上尚弥(大橋)が21日、有明コロシアムでランキング2位の指名挑戦者、リカルド・ロドリゲス(米)に3回1分8秒TKO勝ち。防衛テープを5に伸ばした。
圧巻の試合内容でまたしてもその実力を満天下に示したチャンピオンは9月、ついに米国のリングに立つことになりそうだ。試合を振り返りつつ、井上のこれからに目を向けてみよう。
2日間で5つの世界タイトルマッチを開催した「ボクシングフェス2017 SUPER 2 DAYS」。フジテレビが史上初と銘打ったイベントは、初日に比嘉大吾(白井・具志堅スポーツ)と拳四朗(BMB)が無敗のまま新世界チャンピオンとなり、五輪金メダリストの村田諒太(帝拳)はまさかの判定で世界タイトル獲得を逃した。
翌日の八重樫東(大橋)は想像もできなかった初回TKO負け。それぞれが興味深い4試合だったが、フェスティバルのトリを務めた井上の強さはけた違いだった。
「前半は触れさせず、中盤以降にノックアウトを狙う」というのが井上の描いた勝利のイメージだった。しかし「パンチが切れていた、集中もできていた」という若き王者が早期に試合を決するであろうことは、この試合を見た多くのファンが、ゴングが鳴ってほどなく分かってしまったのではないだろうか。
「そうですね、1分、いや、1分半くらいかな」
「ジャブはよかったですね。痛いだろうねって。ちょっと残酷な感じがしました。だってメキシコ人(ロドリゲスはメキシコ出身の米国籍)って鼻が高いじゃないですか」
試合翌日、記者との立ち話でさらっと口にしたセリフが笑えるようでいて恐ろしい。続けて「距離感をつかむまで? そうですね、1分、いや、1分半くらいかな」。
2回に入ると井上は試合では初めてサウスポーにスイッチし、左ストレートでロドリゲスの膝を折ってみせる。そして3回、相手の左に合わせて「狙っていた」という左フックを打ち込むと、挑戦者はあえなくキャンバスに沈む。立ち上がった挑戦者に再び左フックを打ち込んでフィニッシュ。キャンバスに座り込んだロドリゲスの「もうどうにもできない」という表情が、チャンピオンの強さをより一層際立たせた。