マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「不動のスタメン捕手」不在の時代。
投手が配球の主導権を握るチャンス?
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2017/05/19 11:00
ヤクルトの中村悠平は、12球団でもっとも打撃のいい捕手と言える。捕手が打線の穴にならないことは、チームにとって巨大なメリットになる。
捕手が日替わりになったのはここ数年の特徴。
複数の捕手が日替わりのように、入れ替わり立ち替わり起用される現象は、ここ数年の特徴的な現象で、これまでのプロ野球史の中では初めてのことではないか。
しかし、「ふたり捕手」という状況は、これまでも何例もあって、それはそれである意味「名手」として、今でも語り草となっている。
大エース・鈴木啓示とバッテリーを組んだ有田修三捕手がいた頃の近鉄には、鉄砲肩・梨田昌孝捕手も活躍していたし、江夏豊が剛腕を振るっていた当時の阪神には、その剛速球の捕球音を甲子園の銀傘に轟かせていた「ダンプ辻」こと辻恭彦と、主に村山実、バッキーとバッテリーを組んだ辻佳紀の「ダブル辻」がいた。共に球史に残る名捕手たちであろう。
捕手の複数制、悪いことじゃないと思う。
「ひとり」がいいのか、「ふたり」がいいのか、「複数」のほうが合理的なのか。
正解はないのだろうが、私は捕手の複数制、悪いことじゃないと思う。そうしたほうが、投手が“自立”の方向へ向かうような気がするからだ。
投手と捕手。バッテリーはどちらがイニシアチブをとるべきか?
私は、投げる本人が主導権をとるべきことだと考えている。
そもそも日本の野球は、捕手がバッテリーの主導権を握ってきたように思う。
オレのいう通りに投げてくれば間違いなし! というタイプの捕手と、そういう捕手に頼りながら、決めてもらいながら投げてきた投手たち。
叱られることを覚悟でいえば、ほとんどのバッテリーがそうした関係で成り立ってきたように見える。
そんな土壌から、プロ野球に何人もの名捕手が登場してきた。
さらに、そうした傾向がそのままアマチュア野球にも伝播して、同様のバッテリー関係が成立してきたように思う。
たとえば、甲子園の高校野球を見ていても、捕手のサインに首を振って、投げるボールの選択を修正しながら投げている投手は極めて少ない。
とりわけ、走者を背負ったピンチの場面、走者に目をやって、捕手のサインに目を移して、「なに? ああ、それね……」、そんな感じであっという間にモーションに入る投手のなんと多いことか。
投手が苦しい場面ほど「捕手依存」の現状がはっきりと見てとれる。