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「バレー人生すべてを懸けて闘う」
中田久美新監督、東京五輪で頂点を。
text by
吉井妙子Taeko Yoshii
photograph byNaoya Sanuki
posted2017/05/11 08:00
'80年代から'90年代にかけて全日本の中心に君臨した中田監督。そのカリスマ性で若き選手たちを束ねる。
日本が勝てる要素は極端に少なくなったが……。
しかし、外国勢が高さやパワーだけでなく、技術力や組織力も高まった今、冷静に考えれば日本が勝てる要素は極端に少なくなりました。それでも私は選手に130%の力をつけ、選手たちに最高の喜びを味わって欲しいんです。
中田監督の選手育成法には定評がある。個々の選手の常日頃の言動を心臓外科医のような繊細な目でチェックし、ここぞという時を見計らって一対一で話し合う。ツボを突かれた選手は悩みから解放され、直後から一足飛びに成長する。その術は、天才セッターと呼ばれた現役時代に身に付けたものなのか、生来の性格に拠るものなのか、自分でも分からないと笑う。
練習でも試合でも、あるいはプライベートで食事に行っても、選手の一挙手一投足をくまなく観察しています。ただ、選手個々は育ちも違うし、考え方、癖も異なるので、対応や助言は一人ひとり変えます。私の心根にあるのは、バレー選手になった以上、みんなに高みを極めて欲しい。選手を育てるため、敢えて負け試合をすることもありますし、負けられない場面で新人を起用することもあります。勝てばその瞬間に新人は大きく成長しますし、チームも新人に成功体験を積ませようと今まで以上の力を発揮する。たとえ負けたとしても、その悔しさが選手やチームを成長させる鍵になるんです。
今回の全日本には科学の力をふんだんに持ち込みます。
私は時々、周りに「びっくりした」と言われるような采配をすることがありますが、私にとってはすべて想定内。常に選手の練習態度や取り組む姿勢をしっかり見ていますから、ここでこういう手を打てばこうなる、というのは予想できるんです。
先ほどから選手に130%の力を出させると言っていますが、決してはったりで語っているのではありません。どんな方法かはまだ言えませんが、今回の全日本には科学の力をふんだんに持ち込みます。データバレーではもう勝てません。データはあくまで結果に過ぎない。結果を分析して作戦を立てるのではなく、選手らが頭をフル回転させて試合の流れを先読みし、どんな場面でも対応できる予測能力を磨く練習を重ねていくつもりです。高さ、パワー、スキルに長けた強豪国に勝つには、日本の技術力をさらに精緻にし、その上で予測能力を磨いていく。そもそもバレーというのは、予測するスポーツでもあるわけですから。