バレーボールPRESSBACK NUMBER
成徳仕込みの体幹と即興の修正力。
黒後愛は木村沙織と違う道を行く。
posted2017/05/17 11:30
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
Kiyoshi Sakamoto
19時を過ぎた大阪市中央体育館に、ズドン、にも、ドスン、にも聞こえるスパイク音が響く。
朝10時から4面で4試合が同時に行われる黒鷲旗全日本男女選抜バレーボール大会の、予選グループ戦の3日目。他の3面はすべて試合が終わり、スタンドに残る観衆の数は決して多くはなかったが、叩きつけられたスパイク音の威力に歓声が起こり、所々から聞こえる感嘆の声。
「やっぱり、すごいよな」
1本、また1本と打つたびにそのスパイクは威力を増す。
1日中バレーボールを見続けて、そろそろ帰ろう、と思う人も少なくない中、そんな空気など読まずに進化を続ける18歳。
東レアローズのユニフォームを着て戦う、初めての大会。黒後愛のデビュー戦は鮮烈な印象を残した。
大山加奈や木村沙織を輩出した名門校のトレーニング。
下北沢成徳高校のエースとして、春高(全日本高等学校選手権大会)を2連覇。180cmの高さもさることながら、最大の持ち味は高校時代から将来を見据えて取り組んできたトレーニングの成果による、日本人離れしたパワーだ。
大山加奈や荒木絵里香、木村沙織など、国内のみならず世界で活躍する選手を多く輩出する下北沢成徳。高校で日本一になると同時に、選手生命を長く、世界で戦える選手として育成すべく、技術面では「高いボールを高い打点でしっかり力を伝えて打つ」、「セッターはスパイカーの打点を生かせる高さへ丁寧に上げる」、「突いて返す速いパスではなく次の選手がつなぎやすい質のボールを返す」といったように、基本の基本に重きを置く。
そしてそれ以上に重視するのが、技術を生かすために不可欠な体づくりだ。
筋力や持久力をつけるためのウェイトトレーニングや、自体重での体幹トレーニング、走り込み。多くの選手やOGたちが「本当に苦しいし、きつい」と口を揃えるように、ボールを使った技術練習以上に長い時間を割いてトレーニングを行うのが下北沢成徳の伝統でもある。