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高梨沙羅の客観性、人間力改革。
「化粧や服装もそうなんです」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byShino Seki
posted2017/05/03 09:00
2016年10月に20歳となった高梨。ここ数年間での成長は競技面だけでなく、内面からも感じさせる。
ジャンプが好きな気持ちは、誰にも負けない。
午前の練習を終えて昼の休憩を挟み、午後、高梨が再び姿を見せる。
道路沿いをジョギングしながら戻ってくると、駐車場の裏手で見守る者が誰一人としていない中、アップを始めた。
普通なら筋を違えかねないほど体を急激に、鋭くひねる。水溜りを飛び越えるように歩幅を広げて走る。ときに、片足で続けて2度地面を蹴って走る。そのとき、小柄な体格からすれば意外なほど体が高く浮かび上がる。
他の多くの選手のアップと比べてみても、どれだけ高いレベルまで肉体が鍛え上げられているのかが見て取れる。その動きは、短期間で会得できるものではない。絶え間ない積み重ねがあってこそだった。
「私はスキーにのめりこんでいける熱量というのは人一倍あると思うんです。ジャンプが好きな気持ちは、誰にも負けないという自信があります」
自分の強みは何か、と尋ねたとき、高梨はこう答えたのを思い出す。アップ中の姿は、何よりも雄弁に、彼女の言葉が真実であることを物語っていた。
広い目を持って、理想のジャンプへとたどり着く。
そして、真剣な眼差しが見据えるその先には、2018年の平昌五輪が控えている。
「ソチからのここまでは本当にあっという間でした。ソチオリンピックでは今まで支えてくださった皆さんに感謝の気持ちを結果で残したいと思っていました。それができなかったので、2018年の平昌オリンピックではリベンジしたいという気持ちを強くもっています」
その上で、今シーズンの抱負を語った。
「1日1日を、大事にしたいと思います。今シーズンは世界選手権があるので、そこで優勝したいですし、1試合1試合を大切にしていきます」
「今年を表す漢字」に、2016年は吸収の「収」を選んだ。2017年は「広」だという。
より広い目を持って、物事を捉えることがきっとジャンプにつながっていく。もっともっとジャンパーとして高みに上っていける。理想のジャンプへとたどり着くことができる。高梨は、そう考えている。
(Number特別増刊号 『高梨沙羅「人間力」を鍛えて、もっと先へ。』より)