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高梨沙羅の客観性、人間力改革。
「化粧や服装もそうなんです」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byShino Seki
posted2017/05/03 09:00
2016年10月に20歳となった高梨。ここ数年間での成長は競技面だけでなく、内面からも感じさせる。
衝撃だった室伏広治の「練習は裏切ります」との言葉。
理想のジャンプを追求するために必要なこととして、今シーズンに入る前に学んだこともあった。
ひとつは、「客観性」がいかに重要であるかを知ったことだ。
'16年4月、国立スポーツ科学センターでウインタースポーツの選手たちに向けて講習会が行なわれた。講師の1人として語ったハンマー投げ五輪金メダリストの室伏広治氏の言葉が胸に響いた。
「室伏さんは『練習は裏切りますからね』とおっしゃったんです。それは前にも後ろにもお話があるので、その言葉だけ抜き取ると、また別の話になってしまうんですけど。その言葉の真意は、意味のない練習、効率的ではない練習をしていると自分の成長はそこで止まってしまうということ。自分を客観的に見ることでいい練習、効率的な練習ができる。自分がやったことのないトレーニングを見て、自分がいいなと思ったら試して、それがよかったかどうかは客観的に見て判断してくださいとおっしゃっていました」
「やっぱり最終的に勝敗を決めるのは人間力」
その言葉を受け、高梨はこう考えた。
「自分の窓口を広げて、いろんな情報を取り込んで、そのあとに、取り入れた情報を外からみて、これはいらないかな、合わなかったかな、このトレーニングがあるからこの調子があるのかな、と自分で判断しないといけない」
一連の講習の中で、高梨に大きな影響を与えた言葉がもうひとつあった。
「選手の皆さん、講師の皆さんが、やっぱり最終的に勝敗を決めるのは人間力だっておっしゃっていたんです。ああ、やっぱりそうなんだなって共感しましたし、最終的にはそういうところが鍵となってくるのかなと思いました」
それは自身の経験ともリンクする言葉だった。「日本選手団で金メダルに最も近い選手」と期待が寄せられていたが、4位に終わったソチ五輪だ。
実はソチでは、表彰台に上がった3人の選手と対照的に、2本とも追い風の中で飛ばざるを得なかった。ジャンプは向かい風なら飛距離を伸ばしやすい一方、追い風なら失速する。そのため、風による有利不利が生じないよう、ポイントを加点減点する配慮はあるものの、実際のところは、追い風にあたれば不利であることは間違いない。