書店員のスポーツ本探訪BACK NUMBER
清原にホームランを打たれた男達。
勝負の先にも続く「人生」の深み。
posted2017/04/23 08:00
text by
伊野尾宏之Hiroyuki Inoo
photograph by
Wataru Sato
「人生を変えた本」を1冊選ぶのは難しいが、何冊でも挙げてもいいというなら必ず入れたい本がある。
海老沢泰久『ヴェテラン』。
『ヴェテラン』は1980年代に活躍した6人のプロ野球選手の人生を描いたノンフィクションだ。
私がこの本を読んだのは高校生の時だったが、日本ハムファイターズで活躍した古屋英夫を題材にした表題作が特に印象に残っている。
高校、大学で活躍した古屋はファイターズに入団すると同ポジションのレギュラー選手が故障した間に試合に起用され、結果を残す。そしてレギュラーに定着した。やがてチーム、そしてパ・リーグの中心選手として確たる地位をつかんでいったが、レギュラー定着後10年が経った頃、試合から外される場面が増えた。代わって起用されるのはこれからを期待される若手選手である。
だが、彼らはコンスタントに結果を出せるわけではない。ベテランになった古屋は出番が来ればそれなりに結果を残す。にもかかわらず古屋が外され、若手選手が使われる試合が増えていく。
野球が人間によって行われていることを実感した。
当時のことを古屋はこう語ったという。
「試合に出られないことより、首脳陣から(外されることについて)なんの説明もなかったことがさびしかった」
そして古屋は野球選手としての晩年を迎えていく。『ヴェテラン』は、私に「プロ野球が人間によって行われていること」を認識させた最初の本だった。
NumberWebでの私の書評連載はこれが最後になる。その最後の回に『ヴェテラン』と同じくらい読後、心に刻まれたスポーツノンフィクションを紹介したい。
その本は『清原和博への告白 甲子園13本塁打の真実』である。