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「嫌われる勇気」の著者が驚いた
エディー・ジョーンズの人間理解。 

text by

古賀史健

古賀史健Fumitake Koga

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photograph byTomoki Momozono

posted2017/04/13 07:00

「嫌われる勇気」の著者が驚いたエディー・ジョーンズの人間理解。<Number Web> photograph by Tomoki Momozono

アドラー心理学に触れたことはないというエディー・ジョーンズ氏だが、その指導哲学は『嫌われる勇気』のお手本のようだった。

「ひょっとしたら、エディーさんじゃないかな」

 20世紀初頭に活躍したオーストリア出身の精神科医、アルフレッド・アドラー。彼が唱えたまったく新しい思想「アドラー心理学」は、別名「勇気の心理学」とも呼ばれている。

 アドラーは説く。何が与えられているかなど関係ない。人種、性別、家庭環境、貧富の差、過去のトラウマ、そして才能など、いっさい関係ない。大切なのは、与えられたものをどう使うかなのだ。自分を変え、自分を前進させていく「勇気」だけが必要なのだ、と。

 松井編集長、高橋氏と共に「今のスポーツ界で、アドラー的な勇気をもっとも体現している人物は誰か?」と語り合った。野球界にサッカー界、オリンピック競技から格闘技までさまざまなアスリートの名前が挙がる中、松井編集長は「ひょっとしたら、エディーさんじゃないかな?」と思わぬ名前を口にした。

 2015年ラグビーW杯イングランド大会で日本代表を指揮したエディー・ジョーンズこそ、アドラー心理学の体現者だと。

 言われてみると、アドラーとエディー・ジョーンズの共通点は多い。アドラーは世界で初めて児童相談所を設立し、その普及に尽力した「教育の人」でもあった。そしてエディー・ジョーンズもまた、そのキャリアを高校教師からスタートしている。教育をベースに心理学を考え、チーム・ビルディングを考える。「おもしろいかもしれません」。私はイングランド代表監督となったエディー・ジョーンズにインタビューするため、急きょイギリスに飛んだ。3泊5日の強行スケジュールである。

スポーツ界の哲人、エディー・ジョーンズ。

 ロンドン郊外、指定されたホテルの一室に現れたエディー・ジョーンズ。つい3日前に欧州6か国リーグの「シックス・ネーションズ」最終戦を終えたばかりの指揮官だ。「お休みのところ、すみません」と挨拶すると、君は何を言っているんだとばかりに眉を吊り上げ、こう答えた。「私に休息はありませんし、必要ありません。私はラグビーとこの仕事を愛していますから」。さすがミスター・ハードワークである。つまらない挨拶をしてしまったと後悔しつつ、インタビューが始まった。

【次ページ】 アドラーとエディーが辿りついた人間理解の真理。

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