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敵の隙も、味方の隙も、壁の隙間も。
俊輔は「空白の瞬間」を見逃さない。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2017/03/13 17:00
チームで最も長い距離を走ることもある中村俊輔。「ボールを持って何かする選手」というイメージは正しくないのだ。
俊輔は「空白の瞬間」を嫌う。
ボールタッチ数は、その後も多くなかった。名波浩監督が「ボールを回されることは予想できていた」と話したように、磐田はディフェンスの組織をしっかりと構築することで勝利へ近づいていく。4-2-3-1のシステムでトップ下を務める中村も、素早いプレスバックはもちろん自陣深くまで下がってスペースを埋め、相手に身体を寄せていった。
中村は「空白の瞬間」を嫌う。判定に納得できないチームメイトが主審に抗議をしていても、彼はすぐに帰陣する。相手のボールから視線を切らない。相手チームにゴールの前触れを感じさせないように、攻から守へ切り替える。
後半開始直後の47分にチームが2点目を奪った瞬間も、中村は歓喜の輪に加わる前にGKのもとへ駆け寄っている。得点者の川又堅碁を祝福するよりもまず、カミンスキーに確認をしなければいけないことがあったのだろう。
後半追加タイムに交代するまで、中村は走り続けた。オフザボールの局面でも、走行距離をどんどんと伸ばした。「チーム全体として足が止まっているなかでもボールをキープして、サイドに散らしてくれた。一番走ってくれていたんじゃないかと思います」という川又の感覚も、決して大げさなものではなかった。
相手守備のスキを見抜く目は、失点リスクも察知する。
横浜F・マリノスでプレーしていた当時も、攻撃のタクトをふるうことに専念していたわけではない。相手守備陣のスキを鋭く洞察する彼は、失点のリスクも素早く察知する。ディフェンスでもハードワークをするのは、当然のタスクなのだ。
「純粋にサッカーがしたい」という思いを出発点とした移籍に、中村は経験者としての使命を帯びている。名波監督のもとで再建の過程にあるジュビロで「土台になれたら」と話し、背番号10にふさわしい違いを生み出しつつも、フィールドプレーヤーのひとりとしての責任も果たしている。
「たかが1勝ですけど、僕にとっては大きい一歩です」