マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
結局、捕手の能力は何が最優先か。
捕る、投げる、そしてリードの意味。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2017/03/12 07:00
WBCで中心に定着しつつある小林誠司。チームをマネジメントするというのは、若い捕手にとっては特にエネルギーの必要なミッションだろう。
強肩、というよりもスローイング上手が大切。
その肩は、キャッチングの次になろう。
強肩という表現が、私は好きじゃない。
スローイング上手。
私はこっちの表現のほうを使いたい。強肩は、イコール実戦力ではないからだ。
便宜上、私も「遠投110m」という表現を使うことはある。しかし遠投とは通常、距離を稼ぐために放物線の軌道で投げた距離をいう。実は野球には「放物線の軌道で投げる」ことが必要な場面はなく、したがって、本当の意味での“遠投力”とは、ライナー軌道で何メートル投げられるのか。そっちのほうであろう。
加えて、数年前から始まった「二塁送球1.9秒」なる表現も、捕手のスローイング能力をそのまま表すものではない。最も必要な、コントロールという要素が表現されていないからだ。スピードだけがクローズアップされる風潮が広まると、選手は必ず“あわてて力任せ”に投げるようになる。その結果、球道は乱れて盗塁阻止率は下がり、決して「スローイング上手」になれない。
小さなモーションで正確に投げる“器用さ”。
スローイング上手とは、小さなモーションで敏捷に正確に投げられる能力であろう。
それには、肩や手首、腕力の強さよりも、むしろ“器用さ”のほうが優先されるのではないか……と、最近思い始めている。
内野手のような、小刻みなフットワークを使った小さなモーションのスナップスローで狙ったベースの上に投げられる、体の末端の器用さ。手先、足先の器用さが重要なのでは、と考えるようになった。
捕手のスローイングは、投げた先で、球審に「アウト!」と手を上げさせてナンボである。野球は、陸上競技や水泳のように、時計を相手に勝負する競技ではない。
スローイング上手とは、人間が思わず手を上げたくなるようなスピード感をもって、ベースの上に正確に投げられることと考えたい。