酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
甲子園に出て東大へ行く、は可能か。
流行は文武両道ならぬ文武“別”道。
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKyodo News
posted2017/02/19 11:30
大阪桐蔭には3つのコースがあり、体育・芸術を強化するIII類には多くの競技の一流アスリートが所属している。
実は京大の5位・洛星は、今年甲子園間近だった。
今は「文武両道」なんて無理無理、と決めつけようと思ったが、実は京大ランキング10傑の中に、この春、甲子園にもうちょっとで出場しそうになった高校がある。
5位の洛星高校だ。京都市の私学。選抜の「21世紀枠」候補にエントリーされた。今年度は部員が10人しかいないが、2016年秋の京都府大会でベスト8に入った。
惜しくも選ばれず補欠に回ったが、この学校は「心と頭と体を育てる」というユニークな教育方針で知られる。
また関西学生野球連盟で、初めて京都大から投手でベストナインになった岡村英祐投手も洛星出身。今、岡村氏は弁護士となってアスリートの権利擁護に活躍している。
かつて、岡村氏にインタビューしたことがある。
「僕は、野球の練習があるから、家に帰って復習や勉強ができない。だから授業中に内容は完全に覚えることにして、一瞬一瞬を無駄にせず集中しました」という話に思わず「うへー!」とひれ伏したくなったものだ。
今も「文武両道」を掲げて人の2倍、3倍頑張っている学校も少数ながらあるのだ。
最近の流行りは複数コースでの「文武別道」。
ところで大阪桐蔭といえば、おかわり君こと中村剛也、西岡剛、中田翔、浅村栄斗、藤浪晋太郎、森友哉など、そうそうたる選手を輩出し、NPBで一大勢力となっている。
なんとこの学校が2014年、46人の京大合格者を出して11位にランキングされた。
え? おかわり君も中田翔も「文武両道」だったのか! と思ってしまいそうだが、京大生を多数輩出したのは大阪桐蔭高校の、進学に特化した別のコースだ。
野球で甲子園を目指す生徒と、勉強で東大・京大を目指す生徒を別枠で集める。こういうのを「文武別道」というそうだ。今、全国の私立高校はこの方向に傾いている。
少子化の中、私立高校は厳しい競争をしている。「文武別道」は、より多くの優秀な生徒を獲得し、競争を生き抜くための大方針なのだ。
世の中、世知辛くなった。本当の意味の「文武両道」の学校は、絶滅危惧種なのかもしれない。