“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
恩師・井原監督の薫陶を受けて。
冨安健洋、“新・アジアの壁”へ。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byAFLO
posted2016/11/10 11:30
長身でボランチも務められるほどのビルドアップ能力。現代サッカーのセンターバックに求められる資質を冨安は有している。
U-19選手権では堅守の中心として無失点優勝を実現。
この濃密な経験を生かしたのは、10月のAFC U-19選手権(バーレーン)だった。2学年上の中山雄太(柏レイソル)と不動のCBコンビを組み、無失点優勝を実現した。
大会前のU-19日本代表のミーティングで、メンバーそれぞれが全員の前で決意を話して行くことがあったが、一番長く話したのが冨安だったという。
「自分も話したい気持ちがあった。アビスパで今季降格という経験を味わったので、それを含めて話をさせてもらいました」
U-20W杯出場権が懸かった重要な大会の前に、自分の想いを包み隠さず口にしたことで、彼はもう一度自分を整理することが出来た。だからこそ、初戦からハイパフォーマンスを見せることが出来た。決勝までの6試合すべてに出場をしたのはFW小川航基(ジュビロ磐田)と冨安のみで、出場時間は一番長かった。ターンオーバーで挑んだベトナム戦ではボランチで途中出場するなど、まさに大車輪の活躍を見せた。
決勝のサウジ戦では常に「冷静に、冷静に」。
だが、優勝を果たした後のミックスゾーンでの彼の表情は険しかった。サウジアラビアとの決勝でも彼の存在は際立っていた。相手の強烈なアタッカー陣の前に1対1になるシーンが多かったが、集中力を最後まで切らさずにギリギリのところで身体を張った。
「サウジアラビアのFWにボールが入ったときに距離が空いてしまうと、相手の得意な形なので、対応が難しくなる。ボールが入る前に対応して、それでも相手に入ってしまったら常に『冷静に、冷静に』と自分に言い聞かせていました」
心の中で自分に向けて発した「冷静に、冷静に」というメッセージ。これこそ井原監督が彼に伝えた教えであった。しかし、恩師の教えを実践したにも関わらず、冨安は悔しさを噛み締めていた。
「今日の内容が一番今大会で悪い出来だったと思う。無失点という結果だけかなと思う。一番いいのが相手のFWにボールが入る前に寄せて、前を向かせないで奪うことを目標にしていたが、どうしてもプレッシャーもかからず、ズルズル下がってしまって、自由にボールを持たせてしまうシーンもあった。これでは世界で戦うときに通用しない」