プロ野球亭日乗BACK NUMBER
ボール球が来る事はわかっていた。
大谷翔平が制した駆け引きの内実。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/10/26 12:30
チームから手荒な祝福を受ける大谷翔平。一度は中田翔に譲りかけた主役の座が、再び彼のもとに戻ってきた。
大谷にストライクは要らない、という広島の認識。
それまでは長打が必要だったが、盗塁でワンヒットで生還できる状況になる。ならばあえて空振りして追い込まれても、次のボールでの勝負を選んだわけである。
逆に広島は1-2と追い込み投手有利のカウントになったことで、歩かせるという判断が消えた。大瀬良がマウンドを外す。捕手の石原慶幸が歩み寄り、ベンチから投手コーチの畝龍実も飛び出し「大谷勝負」を確認した。
「厳しくいって四球なら仕方ない。その中での勝負だった」
大瀬良は振り返った。
ここでのバッテリーの考えは、ストライクはもう要らないということである。
歩かせてもいいので、厳しいコースにボール球を3つ投げる。そのボール球に大谷が手を出して打ち損じてくれればいいし、結果として歩かせても中田でもう1度、勝負をし直せばいいわけだ。
実際に4球目に投じたのは内角低め、ボールゾーンの147キロのストレートだった。甘い球ではなかった。だが、大谷はそれを見事にはじき返して、日本ハムのサヨナラ勝ちが決まった。
歩いてもいいと思うか、自分で決めにいくか。
いわゆるストライクは絶対に来ないことを、大谷ももちろん分かっていたというが、ここでストライクを1つ捨てても西川の盗塁を助けたことが選択を楽にしている。
「インコースに突っ込むか、低めのフォークボールかの二択だった。(自分は)長打を打たなくていい場面になったので、その2つだけしか頭になかった」
こういう場面で、打者の考え方には2つのタイプがある。
1つは失投を待って、甘くこない限りは手を出さず、歩くことも考えるというもの。いわゆるつなぎの意識である。
もう1つは自分の打てるゾーンにくれば、積極的に打って出るというもの。いわゆる決める意識だ。
大谷の選択は後者だったわけである。