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タイがいつの間にかゴルフ強豪国に!?
“タイ通”塚田好宣が指摘する2要因。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byAFLO
posted2016/10/20 08:00
タイ人として初めて米メジャー優勝を果たしたアリヤ・ジュタヌガン。世界ランク最高2位の押しも押されもせぬトップゴルファーだ。
シンハービールの異例の手厚いサポート体制。
ほとんどのタイ出身選手のシャツに刻まれている獅子のエンブレムをご存じだろうか。タイを代表するビールブランド、シンハービールは、かねてからプロゴルフの支援に積極的で、契約選手には月給で数万円の給料が支払われるほか、トップツアーを戦う際の遠征費を負担しているという。アジアンツアー参戦時には全額、賞金の高い欧米や日本ツアー出場時も50%のバックアップがある。
「最近はチャーンというビール会社もバックアップを増やしている。日本ではなかなかないシステム」
各国を巡るゴルファーにとって、遠征経費の捻出は重要な問題。単純に契約金を提示するわけではなく、試合出場に応じたサポートだ。
塚田が指摘するタイのプロゴルフ盛行の秘密のもうひとつが、同様の企業に支えられたローカルツアーの存在だ。国内にはオール・タイランド・ゴルフツアー、タイランドPGAツアーといった、それぞれ年間10試合以上を開催するツアーがあり、アジアをはじめトップツアーを目指す若手の登竜門になっている。
これらの試合には、マークセンをはじめ欧州でも活躍するトンチャイ・ジェイディーといったスター選手が積極的に出場している。「優勝賞金が50万円にも満たない試合だけど、下にいる選手たちが、トップクラスのプレーを間近で見られる。だから彼らは下にいるときから、上のレベルを知っているんです」
日本の下部ツアーには4日制の試合がない。
さらに特筆すべきは、各試合がレギュラーツアーと同じように4日間72ホールで争われるところである。日本の下部ツアーは今年15試合が行われたが、3試合が3日間54ホールの大会で、残り12試合は2日間36ホールの試合だった。
「日本では若い選手がレギュラーツアーに辿り着くまでに、4日間の試合がない。でもアジアンツアーに出るタイの選手は、最初から4日間の試合を経験している。週の頭に会場に入って、火曜日に練習ラウンド、水曜日にプロアマに出て木曜に開幕。下積みから、それが当たり前。何から何まで上と同じ環境でやるんです」
タイの選手は練習場にいる時間よりも、試合を多くこなす、世界的にも稀な“超実戦型”。ちなみに男子の大会の前後には女子の大会が同じコースで組まれるケースが多いそうだ。
「女子が男子とほぼ同じセッティングでやるんだから。そりゃ、ジュタヌガンみたいな選手も出ますよ」
塚田の言葉は辛辣ながら納得せざるを得ないものだった。