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石川直宏が愛される最高の組合せ。
柔和さと、リミッターを越える感情。
text by
西川結城Yuki Nishikawa
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2016/09/29 11:00
石川直宏ほど、バンディエラという言葉が似合う選手はJリーグを見渡してもそうはいない。存在そのものがクラブの宝なのだ。
水沼も、室屋も、石川の存在を支えにしていた。
そんな石川の復帰を、自分のことのようにうれしそうに喜ぶ男がいた。この試合の終了間際に決勝点を挙げた、水沼宏太。
「自分が苦しい時に、ナオさんにいろんな言葉をかけてもらった。そのナオさんの復帰戦を勝たせることが出来てうれしい」
今季途中までは主力としてJ1の試合に出場していた水沼だったが、夏場以降はメンバーを外れることが増え始め、最近は若い選手とともにJ3の舞台でプレーしている。試合感覚は保たれるが、今季勝負をかけて鳥栖から移籍してきた立場としては、苦しい心内がある。
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水沼だけでなく、今季のFC東京はさまざまな理由で試合から遠ざかる選手がいた。もちろん石川と同じように負傷で離脱を余儀なくされ、心身のバランスを保つことの難しさを痛感した者もいた。
今夏、リオデジャネイロ五輪に出場した、室屋成もその1人だ。
2月初頭のキャンプ初日に足の甲を骨折。懸命なリハビリに励んでいたが、一時は五輪出場も危ぶまれた。結局大会直前に復帰し、ブラジルの地を踏むことができた。その復帰の際に、室屋はこんな言葉を残していた。
「いろんな人たちの助けがあった。ナオさんの言葉には感謝しているし、それによって前を向けた」
他人の苦しみに寄り添うことで、自分も奮い立たせる。
35歳。ベテランであり、クラブ最古参の選手。石川は自らがケガで苦闘する間も、チームと仲間を注視し、気を配っていった。
「ケガの間も、もちろんピッチでプレーする選手の表情は常に見ていたけど、自然と室内でリハビリや練習をする選手との会話が長くなっていった。同じ境遇の選手たちが考えていることも気になった。
辛い経験は自分もこれまでもしてきた。流れが良い時は、別に他の人間が何も言わなくても良いもの。でも苦しい時だけど、むしろこれをきっかけにグンと成長できるタイミングなんだぞということを伝えたかった。もちろん本人にとっては一番しんどい時期だけど、そこが逆にチャンス。そこで、何を積み上げられるかがその先に絶対につながるということを、わかってほしかった。そう言いながら、自分自身も奮い立たせていました。
今回もそうだけど、サッカー人生の中で結果的に苦しい時が自分が変化する分岐点になってきた。プレーできないのはフラストレーションが溜まるけど、同時にエネルギーを溜め込める時でもある。いかにプラスに過ごしてきたか、それを復帰してから選手は証明していくもの。こういう意識を伝えることは、個人的な成長もそうだけど、ひいてはチームがひとつになるためには欠かせないことだと感じています」