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石川直宏が愛される最高の組合せ。
柔和さと、リミッターを越える感情。
text by
西川結城Yuki Nishikawa
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2016/09/29 11:00
石川直宏ほど、バンディエラという言葉が似合う選手はJリーグを見渡してもそうはいない。存在そのものがクラブの宝なのだ。
血気盛んな「ナオ」が「ナオさん」と呼ばれるように。
冷静に言葉を紡ぐ石川も、昔は血気盛んな選手だった。試合となれば、右サイドから敵に向かって真っ先に飛び掛かるように、突破を仕掛けていった。
青赤(FC東京の愛称)の急先鋒だった「ナオ」。そんな若きアタッカーも、今ではチーム内では「ナオさん」と“さん”付けされる存在になった。
本人も言うとおり、プレーの質や時間と、年々失っていくものはある。しかし、あの頃には気づけなかった、ベテランとしての矜持を抱き始めている。
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「リハビリで、1つ感じたことがありました。本当に長い期間の中で、先の目標を目掛けてやっていくのはなかなかしんどい作業。ある意味、大きな目標をあえて持たないことで、自分のモチベーションを上げられると感じた。無心に励む。
(室屋)成なんかにも話したのは、先を見ると長すぎるので、一日一日の目標をとにかくクリアしていくこと。ひとつひとつの手応えを噛み締めながら進めていく。これはきっと、リハビリだけではなくて復帰してからのスタイルにもなっていくはずだってね」
試合に出てないベテランに当時は疑問を持っていた。
「大きな目標にがむしゃらに向かう自分、というのはプロとしてはもちろん大事。若い時なんかは、その塊だった。
例えば試合に出ていないフジさん(藤山竜仁)やサリさん(浅利悟)、ケガで長く離脱した文さん(三浦文丈)や土肥(洋一)さんもそうだったけど、みんなベテランは感情を表に出さずに黙々と続けていた。
俺からしたらおかしかった。何で大人しくしているのか。チャンスなんて掴みに行かないといけないのに……って。
当時の自分はエネルギーが溢れすぎていて、ちょっとでもうまくいかなかったら感情を爆発させていた。そういう熱いものがこの人たちにはないのか、と疑ったこともあった。
だけど、今の立場になって思うことは、そんなエネルギーはどの歳になってもあって当たり前で。いかにそれを自分でコントロールしながら、来るべき瞬間のため準備できるかなんだなと。それに、ピッチに立ったらコントロールしていた感情のリミッターは勝手に解除される。それを、1年以上ぶりの復帰戦で実感できたんです」