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黒田博樹は怒りさえチームのために。
「カープという“原点”に帰って」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/09/18 11:00
感情を表に出すことを避ける選手も多い中、黒田博樹の表情は実に変化に富んでいる。その人間性も魅力の1つだ。
カープの若手に影響を与えた黒田のメンタリティ。
私は、昨季から加入した黒田のメンタリティが、カープの若いメンバーに影響を与えたと思っている。
今季、セ・リーグを独走した広島。勝因は様々だ。先発では野村祐輔が安定し、打線では上位が固定された上に、中軸の新井貴浩が復活し、鈴木がブレイクスルーした。
そして目に見えない部分として、集団としての「メンタリティ」が熟してきたと思う。昨季、8年ぶりに日本球界に復帰した黒田は「若い選手は、僕らが若い時より真面目で、本当によく練習しています」と言いつつも、こんなことを話していた。
「野球に対して真面目であることは大切です。でも、ゲームになると相手と勝負するわけなので、真面目な中にも、気持ちを前に出していくことが必要だと思うんです。気持ちだけでは抑えられないけれど、気持ちがないとダメな部分がありますから」
マイコラスに対してのジェスチャーは、極端ではある。しかし、マウンドを預かる黒田にとっては、許せないプレーに対しては態度で示す必要があったのだ。
「カープという“原点”で野球への姿勢を思い出せた」
黒田は「貪欲さ」がプロ野球で成功するには大切だという。
「貪欲にプレーすれば、もっと良い結果が出るんじゃないか、と思う場合があります」
今季、広島は終盤での逆転劇がトレードマークになっている。
昨季、投手陣が充実しながらもクライマックスシリーズ進出を逃したのは、シーズンを通して打線が不振だったことが挙げられる。しかし、今年の打線はまさに貪欲だ。終盤に追いかける展開になっていても、自分のひと振りで決めるという強い意志が感じられる。黒田が背中で示したものは大きかったと思う。
「僕はともかく、新井もずっと頑張ってますよね。30代後半になって必死に野球をやっている。僕ら、カープという“原点”に帰って、野球に取り組む姿勢を思い出せた気がします」
黒田に話を聞くと、若いころの勝ち試合の記憶は滅多に出てこない。打たれた試合のことばかりだ。しかも、細かいところまで詳しく記憶している。
悔しさのなかで、次の試合に向かう気持ち。それが黒田を作ってきた土台である。そこにカープの神髄がある。
クライマックスシリーズでも、カープの財産をつぎ込めば、いい結果が待っているはずだ。