野球のぼせもんBACK NUMBER
目指す境地はトリプルスリーよりV3。
柳田悠岐、4戦連続HRを生んだ「左脇」。
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/08/30 11:30
柳田と言えば豪快なフルスイングのイメージだが、その前の“力を抜いた”フォームも一見の価値がある。
好調時の柳田のポイントは「左脇」にある。
工藤監督は「自然体で打席に入れているように見える」と評した。
自然体。好調時の柳田にいつも共通しているのは、上半身、特に肩から腕にかけて無駄な力が入っていない点にある。昨年も特に調子がいい時期は、左脇で小刻みにリズムをとって打ちに行っていた。手先や腕でなく左脇というのがポイント。そうすることで肩の力が抜けていた。
現在は、背筋をピンと伸ばし、構える際の手の位置を体から少し離すことで、絶妙のバランスを保っている。藤井康雄打撃コーチによれば「このところ、練習の中でロングティーを取り入れたのもプラスに働いている」と説明する。ふわりとしたボールを打ち返すこの練習法では球の反発力を利用出来ないため、きちんとしたフォームやミートポイントで打たなければ理想的な打球は飛んでいかない。柳田はロングティーで、何本もの放物線を外野スタンドへと描いていた。
「今年は“ぼちぼち”の成績かなと思います」
遂に本領発揮の時が来たとはいえ、ここにたどり着くまでが本当に長かった。
トリプルスリーのさらに先の境地を目指して、今季は「40本塁打・40盗塁」を目標に掲げて臨んだシーズンだ。28日までの成績は、チーム全117試合に出場して打率.306、17本塁打、71打点、22盗塁。
決して首をかしげる数字ではない。だが、第三者はワガママだ。スワローズの山田哲人が昨年同様の活躍を見せているだけに、風当たりは強くなる。
今の成績について。おそらく、一番訊かれたくない質問だろう。しかし、柳田はいやな顔一つ浮かべずに答えた。
「5月には諦めていました。いや、冗談ですよ(笑)。“ぼちぼち”の成績かなと思いますが、日ハムとの差も縮まってきたし責任を感じています」
だけど、目は背けないと決めている。
「逃げるのは簡単ですから」
そのひと言に、開幕前にインタビューしたときの言葉を思い出した。