野球のぼせもんBACK NUMBER
目指す境地はトリプルスリーよりV3。
柳田悠岐、4戦連続HRを生んだ「左脇」。
posted2016/08/30 11:30
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
Hideki Sugiyama
熱男どころか、ホークスナインは肝を冷やす毎日に違いない。
ファイターズと最大11.5差引き離していた頃は「史上最速の6月マジック点灯か?」「リオ五輪期間中に優勝を決めてしまうのでは」などと余裕たっぷりのジョークがチームの周辺では飛び交っていたが、その差はみるみるうちに縮まった。
8月18日には「マイナス0.5差」という珍現象となりながら首位をなんとか守ったものの、ついに25日のイーグルス戦、開幕18試合目から堅持していた1位の座から114試合目にして転落してしまったのだ。
25日の試合後のヤフオクドームのベンチ裏。努めて明るく振舞おうとするチームスタッフの姿が逆に痛々しかった。険しい表情でロッカールームへと引き上げる選手たち。
柳田悠岐は、その中でもひときわ厳しい顔で怒りに肩を震わせながら歩を進めていた。
まるで地獄絵図だった。
あんな負け方があるのか。
果敢なキャッチのはずが悪夢のランニングHRに。
1点リードの9回表。2日前の試合で負傷したサファテに代わって“臨時”守護神を務めたスアレスが1アウト一、二塁のピンチを背負った。ここで打者・茂木栄五郎の打球はセンター前方へのライナー。柳田は果敢に突っ込む。足から滑り込んでキャッチ……と思った次の瞬間、ボールはグラブをすり抜けて外野の奥へと転がっていった。
まさかのランニング逆転3ラン。呆然と立ち尽くす柳田。スタンドは大きなため息。目を覆いたくなるような惨劇だった。
「奇跡も起きるし、こういうことも起きる。それが野球だからね」
会見場に姿を見せた工藤公康監督は、まずそのように声を振り絞った。柳田のもとには指揮官をはじめ、チームメイトが次々と集まった。
「切り替えろ」
しかし、とてもそんな気分にはなれなかった。
「正直難しかった。翌日の試合前までは『野球したくない』って思いましたから」