野ボール横丁BACK NUMBER
甲子園快投の左腕2人を見て考える。
「思ったよりキレがある」球の正体。
posted2016/08/19 17:30
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Hideki Sugiyama
今大会は近年になく投手のレベルが高いと言われるが、彼らのように強烈な印象はないものの、玄人筋をうならせた二人のサウスポーがいた。
8強入りの立役者となった木更津総合(千葉)の早川隆久と、ベスト16に導いた日南学園(宮崎)の森山弦暉だ。球速は、早川が130キロ後半から140キロ、森山にいたっては速くても120キロ後半だった。
体型も履正社(大阪)の寺島成輝のように、まるで大学生のようながっしりとした投手が多い中、早川は身長180センチ、体重73キロとスリムだったし、森山は身長160センチ、体重65キロと、今大会の最小エースだった。
両投手の共通点は、対戦した打者が口々にこう話すところだ。
「思ったよりキレがある」
回転軸の角度がゼロに近いほどバックスピンがかかる。
2回戦で、木更津総合の早川に、わずか2安打で零封された唐津商(佐賀)の1番・井上樹希也は3三振を喫した。
「低めのボールが、ボールかと思っても浮き上がってきてストライクになる。レベルが違うと思いましたね」
日南学園の森山と2回戦でぶつかり、4-6で敗れた市立和歌山の3番・薮井幹大はこう振り返った。
「球速以上に伸びがあった。テレビで見ているのとは、ぜんぜん違いましたね」
キレの正体を語るのは、筑波大学野球部の監督で、運動動作解析の専門家でもある川村卓だ。
「私も早川君は不思議な投手だなと思っていたんですよね。球のキレ、伸びに影響を与えるのは、球の回転数もありますが、それ以上に回転軸の角度が重要なんです。通常、腕には横回転の遠心力がかかるため、投球方向に対して20度から30度、傾いています。しかし、まれに、この角度が小さく、ゼロ度に近い投手がいます。全盛期の藤川(=球児・阪神)投手は5度ぐらいだったそうです。ゼロ度に近ければ近いほど、バックスピンがかかり、伸びているように感じられる。早川君はこのタイプなのではないでしょうか。腕の振りを見ていると、最後、指にかけるときに縦に振っているように見えますね。ただ、それを意識的にやることは技術的にとても難しい」