炎の一筆入魂BACK NUMBER
好調広島の流れに乗った下水流昂。
和製大砲が覚醒したきっかけとは?
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/08/07 07:00
下水流は8月4日終了時点で35試合出場ながら5本塁打、OPSは.906とその打力が開花しつつある。
野球人生で常に2番手以下の男が秘める長打力。
横浜高校、青学大、ホンダという野球の名門をたどり、プロ入りした。だが「そんな選手じゃない。僕はチームで一番になったことがない。いつも2番手以下。目立たない存在だった」と本人が語る通りエリート意識はない。
甲子園に出場した横浜高校では7番打者。青学大3年時から社会人ホンダ時代はケガに見舞われ、1年を通してチームを引っ張ることができなかった。選手として、充足感をえたことなど1度もない。
それでもリストを利かせたスイングから放たれる飛距離は、チーム内でもトップクラスだ。石井琢朗打撃コーチ就任以降、キャンプなどの定番メニューとなったロングティーでは、誰よりも遠くへ飛ばした。パワーを持ち味とする松山竜平でさえ「バケモノ」と驚き、'14年本塁打王のエルドレッドにかけて「小(コ)ルドレッド」と呼ぶチームメートもいる。
だが、その能力がすぐに発揮できるほど、プロの世界は甘くはない。アマチュア時代のように、プロでもケガに悩まされた。1年目オフに親指付け根の種子骨除去手術。翌年以降も後遺症は残り、左足首捻挫もあった。それでも昨季は二軍でリーグ4位の14本塁打を記録。和製大砲候補の片鱗をようやく見せたシーズンだった。
そして、立った開幕戦の舞台は、ゴールではなく、次のステージへ上がるための試練だったのかもしれない。
東出打撃コーチらは下水流の復調を信じていた。
開幕戦後「打席でも宙に浮いている感じだったと思うよ。緊張で試合中の記憶もないんじゃない」と話していた東出輝裕打撃コーチは、打線が好調だった5月に、下水流の復調を信じていたという。
「(一軍の)誰かの調子が落ちても下にいる選手が調子を上げればいい。下水流は開幕戦で全然ダメだったけど、あの経験がシーズンのどこかで生きてくる。そのための起用でもあったんだから」
昨秋キャンプからの成果でつかんだ開幕スタメンは、首脳陣にとっては期待の表れであると同時に、投資の意味も込められていたのだ。
そして、その投資に下水流が応えた。