炎の一筆入魂BACK NUMBER
好調広島の流れに乗った下水流昂。
和製大砲が覚醒したきっかけとは?
posted2016/08/07 07:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
NIKKAN SPORTS
じめっとした暑さを感じるようになった5月下旬。雨を打つ広島二軍施設の大野総合屋内練習所に、天気とは正反対に、すっきりした表情の下水流昂(しもずる・こう)がいた。努めて明るく振る舞おうとしているわけでもなさそうだった。切り替えという名の消化ではなく、やるべきことが明確になった活力を感じた。
ちょうど2カ月前、下水流は一生忘れることはできないほどの経験をした。
3月25日、マツダスタジアム。シーズン開幕戦に下水流は「7番右翼」で先発出場した。だが、2打席無安打で迎えた7回の第3打席を前に代打を送られると、ベンチに座る下水流の表情はまだ強張っていた。2回の第1打席では、追い込まれてから左肩を直撃する悪球に空振り三振。初の開幕一軍で勝ち取ったスタメンのチャンスで、何もできなかった。
いや、何もできなかっただけでない。
「ありえない不細工なことをしてしまった」
こう振り返った悔恨と落胆はすぐに消え去るものではなかった。その後も結果を残せず、6打席無安打という結果で開幕から2週間もたたず、4月6日に二軍降格となった。
「自分で自分の心をコントロールできるかどうか」
「精神的に弱かった。力のなさを痛感した」
再出発となった二軍ですぐに試合に出て結果を残しながらも、「どうすれば一軍で打てるかのかだけを考えていた」と一軍で通用するために変化を求めた。だからこそ降格後すぐに本塁打を打っても、心は晴れなかった。一軍で力を発揮できなければ意味がない。森笠繁、朝山東洋両二軍打撃コーチらとともに、打撃フォームから打席での意識まで、様々な面を見つめ直した。
「技術も変えたし、心も変えた。心の部分の方が大きいかもしれない」
開幕戦で味わった挫折は「精神面の弱さ」だと思っていた。だがメンタルに対する考え方の根底を変えたという。
「気持ちに強いも弱いもない。どれだけ、自分で自分の心をコントロールできるかどうか。コントロールできるようにならないといけない」