マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
予選で消えた3825校、4万人の球児。
あえて未練で名手達に思いを馳せる。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/08/06 07:00
角館の小木田敦也、その強気の投球は見る者を魅了した。またどこかで彼の投げる姿が見たいものだ。
高校野球卒業の言葉は、彼らしいものだった。
この夏の秋葉飛憂雅は、試合によってクリーンアップを打つこともあれば、6番、8番をつとめたりもした。そして、6番を打った準々決勝で、いかにも彼らしい仕事をやってのけた。
3-4と逆転を許し、終盤8回裏。
ある意味、絶体絶命のピンチに先頭打者として打席に入った秋葉飛憂雅は、リリーフ投手の代わりばなを叩いて、レフトに同点弾を放ってみせた。
「スタンドを見たら、みんなが必死に応援してくれているのが見えて、負けられないと思った」
いつもどこかを見ている、いかにも彼らしいコメントを残して高校野球を卒業していった。
見事過ぎるほどの“卒業式”を、みずから飾って巣立っていった彼だけに、式がもう少し遅くてもよかったんじゃないか……? 見えない相手に、今さらながらに問い返してみたりしている。
甲子園での場外弾を妄想させてくれた選手も……。
なかなか選手をほめない岐阜・大垣日大高の阪口慶三監督が「野球センスのかたまり」と評する湯口郁実遊撃手も、“あと1点”の壁が越えられなかった。
入学してすぐにレギュラーに抜擢されたから、彼の実戦は何度か見ている。湯口郁実も、いつもどこかを見ている、その繰り返しだったように思う。
ウェイティング・サークルで相手投手をじっと見て、何かを感じて、何かを知って、タイミングを合わせて。あらかじめいくつもの情報を仕込んだ上で、打席に向かう。
だから、なんでも1球できめた。送りバント、エンドラン、スクイズ……やり直しがないから、成功した上に攻めに勢いが増す。
守っても、そうだ。
カーンと打球音がこだました瞬間、もう一歩動いている。“想定”を持っているからだ。先回り、先回りするから、次の動作に余裕があって、やることに間違いがない。
他の選手の“お手本”としても、ぜひ甲子園にやって来てほしい選手だった。
甲子園での場外弾を本気で妄想した明秀日立高・細川成也(投手、外野手・180cm85kg・右投右打)に、佐賀商業・野中翔太(捕手・182cm90kg・右投右打)。
優美さすら覚える低いライナーで外野を破っていく愛工大名電高・高橋優斗(三塁手・180cm79kg・右投左打)や、抜群のバットコントロールに加えて春から守る遊撃手としてのフィールディングも達者だと聞いていた如水館高・持田大和(3年・180cm74kg・右投左打)だって、予選で終わらせるにはもったいなさ過ぎる逸材たちだった。