松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
松山英樹がクラブを戻して復調気配?
「難しい方が研ぎ澄まされる」説も。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph bySonoko Funakoshi
posted2016/07/29 17:00
この日の松山英樹は、ショットの力感が戻っているようにも見えた。ゴルファーである限り、試行錯誤は続くのだ。
試行錯誤は絶対に必要で、そこに失敗はつきもの。
使い慣れたクラブと新しいクラブ。そのどちらがいいのかどうか。新しいものへ変えたこと、古いほうへ戻したことと好不調に、どこまで関連性があるかを計る指標は実はない。
そんな中、その関連性を「それはない」と松山がきっぱり否定してみせた背景には、契約先のスリクソンやツアーレップの藤本哲朗氏への松山なりの気遣いがあるように思えてならない。
が、ともあれ理想を追求し、その理想の実現に近づくために新しい性能を備えたクラブを試すことはプロゴルファーには絶対的に必要で、どんなときもトライアルにエラーは付きもの。人間も、物品も、諸々のモノゴトも、トライ&エラーを繰り返しながらみんな大きくなっていく。
松山がハーフキャビティの新アイアンを握ったのだって、そもそもはアイアンショットに高めの弾道を求めてのことだったはず。クラブチェンジは、理想を追い求める松山の試行錯誤のプロセスの1つ。そしてクラブチェンジのみならず、試行錯誤は常にいろいろ行っているのだから、クラブチェンジばかりのせいではないのだと松山は言おうとしていたのだろう。
「難しいほうが研ぎ澄まされるんですかね」
それにしても興味深いのは、一般的には難しいはずのマッスルバックから易しいはずのキャビティバックへ移行し、再び難しいマッスルバックへ戻ってきたという松山の経緯。
松山の用具を担当するツアーレップの藤本哲朗氏が雑談の中で面白いことを口にした。
「難しいほうが研ぎ澄まされるんですかね?」
なるほど。それはあるだろう。今年、難コースのオークモントで全米オープンを制覇したダスティン・ジョンソンは、まさに難しいコースほど集中力が高まり、感性が研ぎ澄まされると言っていた。
「易しいコースでは、毎ショット毎ショット、いいショットを打とうとしてしまう。でも難しいコースでは、ある1点だけに絞って、そこだけはなんとか切り抜けようと必死になる」
まるでジャングルの中で息をひそめて獲物を狙う野生動物のごとし。そう言えば、今週の松山は、全英オープンまでは無かったヒゲを伸ばし、野生的、いや野性的な雰囲気を醸し出している。
クラブチェンジの良し悪しが取り沙汰され、成績不振が続く難しい状況下、彼に潜む感性や本能が研ぎ澄まされ始めているのかもしれない。獲物に飛びかかるのは一瞬のこと。
その一瞬は、今週、訪れるだろうか。