“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
GK壊滅危機で台頭した磐田の救世主。
20歳の新星・志村滉、驚異の観察力。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2016/07/23 07:00
志村はルーキーの頃に「ポゼッションに関われるところ」も自身の特徴として語っている。将来的には磐田、そして日本代表の守護神を担える逸材だ。
トップ選手の動きを観察し、自分のモノに。
プロ1年目の2015年、志村の出番は来なかった。だが、彼はこの期間でフィジカル強化と観察力の2つにさらなる磨きをかけた。高校時代の恩師によってフォーム、ステップワーク、キャッチング、キックなどGKに必要なベースの部分を徹底して植え付けられていた志村は、この1年間で体重を5kg増やした。またカミンスキーや八田のプレーはもちろん、トップの試合で多くの他チームのGKを見て、自らのインプット作業を怠らなかった。
そして迎えた2016年。彼が台頭する予感はあった。
それは緊急事態が起こる前の4月27日、磐田の練習場である大久保グラウンドで行われた、U-19日本代表と磐田の練習試合でのことだった。この日、目を引いたのはU-19日本代表の選手よりも、磐田のゴールマウスを守った志村の方だった。
正直、ちょっとした衝撃だった。ストレートな物言いをするとGKとしての技術が格段に上手くなっていたのだ。1対1への対応、クロスへの応対が非常に落ち着いていて、パンチングとキャッチングの判断の質も非常に高くなっていた。コースを限定する際も、最後まで上体のバランスを崩すこと無く、相手に正対し、コースを切りながら反応するタイミングを計っていた。
そして高校時代もよく目にした“スッ”と手が伸びて行くセービングも披露。中でも35分に見せたFW小川航基(磐田)のヘッドに対するファインセーブと、こぼれ球に反応したDF野田裕喜(G大阪)へのシュートブロックは完璧なプレーだった。
「周りを見て、いいところを盗んでいます」
試合後、「びっくりするくらい成長しているね」と話すと、志村からは「だいぶ自分のプレーが整理されてきましたし、やりたいことが出来るようになって来たんです」と答えが返ってきた。
その成長ぶりについて、伊藤もこのように語っている。「去年の選手権の前に志村が市立船橋に来て、後輩の練習に参加してくれた。そこで感じたのは顔つきの変化と、プレー面では高校時代はあと一歩寄せられなかったところがスムーズに寄せられたり、予測のスピード、身体の運び方が良くなった。いろんな部分のスピードが上がったと感じた」
伊藤が気付いた変化を伝えると、志村からはこう答えが返って来たという。
「僕は周りを見て、いいところを盗んでいますから」
カミンスキー、八田はもちろん、磐田と対戦する相手チームのGKの動きを観察し続けたことで、彼はより多くのものをインプットし、プレーという形でアウトプットしたのだ。それは高校時代と何も変わらない。一貫した姿勢を貫いて来たからこそ、彼はそれから僅か1カ月足らずで巡って来たチャンスを掴み取ることが出来た。
だが、志村はまだ完全にレギュラーを掴みとったわけではない。本来の静守護神であるカミンスキーが復帰すれば、定位置を失う可能性もある。だからこそ、彼はさらなるインプットとアウトプットが求められるし、プロ生活が終わるまで、その作業は続けていかなければならない。
それは志村自身が一番良く分かっている。言われなくても、彼の中で習慣化されたこの作業が、より彼をレベルアップに導いてくれるはずだ――。