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イチローの秒読みと好調マーリンズ。
あと3年で「無人の野」に突入する!? 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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posted2016/07/22 07:00

イチローの秒読みと好調マーリンズ。あと3年で「無人の野」に突入する!?<Number Web> photograph by AFLO

歴代名選手ランキング入りや走る速度など、いまや全ての行動がニュースになるイチロー。3000本安打はどんな形で達成されるのだろうか。

ホームラン競争で驚異の記録を作った大砲も復帰。

 マーリンズが強気になれる最大の理由は、大砲ジャンカルロ・スタントンの復調だろう。5月の月間打率などは、1割7分3厘と眼を覆いたくなるほどだったが、7月(18日現在)は3割3分3厘にまで回復している(通算ではまだ2割3分9厘/20本塁打だが)。

 それよりも顕著なのは、パワーの復活だ。オールスター前夜のホームラン・ダービーを見た方は、優勝したスタントンの怪物ぶりに度胆を抜かれたのではないか。

 第1ラウンド(対ロビンソン・カノー)が24本、準決勝(対マーク・トランボ)が17本、決勝(対トッド・フレイジャー)が20本。スタントンは3回の試技(1回は基本的に4分。これにボーナス・タイムが加わる)で合計61本の本塁打を放った。

 これは、2005年にボビー・アブレイユが記録した41本を大幅に上回る新記録だ。しかも、61本中15本が飛距離480フィート以上。30秒間のボーナス・タイムをもらえる基準が「440フィート以上を2本」だから、段違いの飛距離だった。こういう快楽的な長距離砲は、現代では珍しい。イメージとしては、マーク・マグワイアやサミー・ソーサよりも、ラルフ・カイナーやジミー・フォックスといった古典的な大砲を連想してしまう。

あと3年で、イチローは前人未到の存在になる。

 となると、イチローびいきの私は、やはり少しだけ複雑な気分になる。スタントンが復調してマーリンズがポストシーズンに進出するのはぜひ見たいのだが、イチローの先発出場が減るのは寂しい。

 あとふたりの外野手、マルセル・オズナ(3割4厘/17本塁打)とクリスチャン・イエリッチ(3割1分7厘/7本塁打)も好調を維持しているから、イチローの出番はいよいよ限られてくる。このうちだれかを一塁手にコンヴァートしてイチローを外野で先発させ……などという邪道まで考えてしまいそうだが、これはひいきの引き倒しというものだろう。

 イチロー自身も「第4の外野手」という位置付けは、過不足なく受け止めているはずだ。いまのペースを維持すれば、今季の安打数は年間100~120本に届くだろう。すると、27歳から42歳までの通算安打数は3050本前後に達する。

 資料に当たってみると、27歳(イチローが大リーグにデビューしたシーズンの年齢)以降の総安打数で彼を上回るのは、ピート・ローズただひとりだ(45歳までに3357本を打った)。「遅咲きの大器」サム・ライスは2925本だったし、「がに股の巨人」ホーナス・ワグナーは2766本、「ザ・マン」ことスタン・ミュージアルは2635本、「球聖」タイ・カッブでさえ2589本に終わっている。

 いいかえれば、あと3年、いまの水準でプレーしつづけるなら、イチローは無人の野を突き進む可能性が高い。私は、その姿も見たい。好調の今季、できるだけ多く彼の先発出場を楽しみたいのはやまやまだが、「イチローの楽しみ方」はほかにも多い。長い眼で見て、彼の切り開いてくれる新天地の到来を待とうではないか。

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