ひとりFBI ~Football Bureau of Investigation~BACK NUMBER
EUROのサッカーは標準化しているか。
抗うのはドイツ、スペインら数カ国。
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph byAFLO
posted2016/07/01 07:30
アイスランドがその規律と戦術でイングランドを倒した一戦は、今大会最大のジャイアントキリングとなった。
「反移民」のスペインやイタリアが歩む固有化の道。
1990年代以降、西欧や北欧の国々を中心に、労働力不足を解消する策として積極的に移民を受け入れてきた。その点では少子高齢化が進み、労働力需要が高まる一方のイタリアやスペインも同じだったが、近年は「反移民」へ舵を切っている。スペインもイタリアも対岸の北アフリカ諸国から多くのイスラム系移民が流入しやすい地理的条件もあり、不法移民や治安の悪化などの問題に悩まされてきた。ただでさえ経済状況が芳しくない上に、イタリアでは近隣諸国へ脱出する人が増えている。
スペインでは失業率が20%を超え、若者に至っては約半数が失業中の身である。住宅バブルの崩壊もあり、労働力の需要が激減。正直、移民どころではない――というのが本音だろうか。
ギリシャを含む南欧の国々は、経済的に豊かなドイツを筆頭とするEUの「勝ち組」とは事情がまるで違うわけだ。代表チームが国家を映し出す鏡なら、スペインやイタリアが従来のローカル路線を守るのも当然かもしれない。今大会もスペインはスペインらしく、イタリアはイタリアらしかった。
EUを離脱する国が増えれば、中堅国は厳しい状況に。
これまで移民の受け入れに積極的だったスウェーデンなどはこの先、ドイツのように「多様化」された代表チームを持つポテンシャルを秘めているが、現実味はどうか。
ここにきてヨーロッパは内戦が続くシリアをはじめ、中東から大量に流れ込む「難民」の問題に直面し、潮目が変わりつつある。各国で台頭の兆しがあった右派勢力がこの機に乗じて、存在感を強めているからだ。良識派がこぞって眉をひそめる、アメリカ大統領選の『トランプ現象』も、いまや他人事ではない。
反移民の声や、国境に再び「壁」を築こうとする気運がさらに高まれば、国を2つに割るイギリスのような「分断」が深刻化するだろう。
8年後、12年後のEUROにおけるドイツは、依然「国家のロールモデル」たりうるだろうか。再び人の自由な移動が制限されたとき、貴重な上位レベルの経験を持ち寄る国外組を躍進の担い手としてきた中堅国がすんなり「標準化」の流れに乗れるだろうか。
この先、本当にEU内で離脱の連鎖が起きれば、未来のEUROでは、伝統というオリジナルの資産を守り抜く大国と、その他の国々との「格差」が再び広がる――そんな妄想がふくらむばかりだ。