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イビチャ・オシムが語るEURO2016。
「大国の勢力図は書き換えられるのか」
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byTakuya Sugiyama
posted2016/05/26 11:00
過去に忘れられた国への、高まる期待。
ポーランドやスウェーデン、オーストリア、ハンガリーらは、過去に忘れ去られていた国々だ。なかでもオーストリアは、長い間国際舞台から遠ざかり、地元開催のEURO('08年、スイスとの共同開催)でもグループリーグ敗退とパッとしなかった。それが今、若い世代の台頭と数人の帰化選手とともに鮮やかな復活を遂げた。私が住むグラーツでも、期待はいやが上にも高まっている。
選手たちは大きなプレッシャーを感じているだろう。サッカーで生計をたてていくためには、サッカーに対して彼らも奉仕しなければならないからだ。
大会の舞台がフランスであるのもいい。素晴らしい雰囲気と素晴らしいスタジアム。すべてがサッカーの祭典を感じさせる。
サッカーそのものをわれわれはもっと語ろう。
だからこそ、何のアクシデントもなく大会が進行して欲しい。われわれを取り巻く世界の状況は決して良くはない。紛争や戦争がいたるところで発生し、私はそれが世界大戦にならないことを願うばかりだ。
だが、民衆の行動は予測不能で、これから何が起こるのか想像がつかない。多くの人々が、困難な生活を送っている。それに対してサッカーで語られるのは金の話ばかりだ。
貧しさにあえぐ人々は、サッカーに多くを期待している。それはサッカーのいい面に対してばかりではないが、そうであるからこそ、金やスター選手の派手な生活ではなく、サッカーそのもの、試合そのものをわれわれはもっと語ろう。EUROこそそれに相応しいサッカーのフェスティバルであるのだから。
誰もが期待に胸を膨らませている。そしてサッカーの世界を支配し続けてきた大国が、これからどこへ行こうとしているのか、明日のサッカーはどこへと向かうのかを、興味深く見守っている。