沸騰! 日本サラブ列島BACK NUMBER
周囲が「遅い」と感じるハイペース。
NHKマイルはエンブレムの完全勝利。
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byKyodo News
posted2016/05/09 11:40
府中の長い直線に先頭で飛び込み、そのまま押し切ったメジャーエンブレム。伸びるというよりも、落ちない末脚だ。
「流れが遅い」と錯覚させるハイペースの謎。
敗れた馬に騎乗した何人もの騎手が「もっと流れてほしかった」とコメントしていたが、ラップを見ると、けっして先行馬に有利な流れではなかったことがわかる。
前半4ハロン(800m)が46秒0、後半4ハロンが46秒8。これは、逃げたメジャーエンブレムが刻んだラップである。
同じコースで行われ、「3歳のこの時期にしては驚異的なラップと勝ちタイム」と言われた2走前のクイーンカップでメジャーが叩き出したラップは、前半46秒1、後半46秒4。勝ちタイムは1分32秒5だった。
前半4ハロン、つまり、3、4コーナー中間地点あたりまでは、NHKマイルカップのほうがクイーンカップより速かったのだ。クイーンカップ当日は、芝1800mの古馬牝馬の1000万特別でも1分45秒5というタイムが出るほどの高速馬場だったが、NHKマイルカップの日は、同じコースで行われた古馬準オープンの勝ちタイムが1分34秒7と、ほかのレースでも驚くような時計が出たわけではなかった。
これは一体どういうことだろう。メジャーは、実際には速いラップを刻みながら、後ろの騎手たちに「流れが遅い」と錯覚させるほど楽に走っていた、ということか。
後方に控えた馬が届いておかしくないハイペースをつくりながら、押し切ってしまったことは事実だ。
3歳牝馬としてはケタ外れに強いことは間違いない。
もう少し細かくラップを見てみると――。
クイーンカップでは最後の1ハロンも11秒台(11秒9)で走り切り、2着を5馬身突き放した。しかし、今回は、最後の1ハロンに12秒3を要し、2着に3/4差まで詰め寄られた。より力のいる馬場状態だったぶん、最後に少し速度が鈍り、相手が強くなったぶん、着差が小さくなったのだろう。
ということは、メジャーエンブレムが発揮したパフォーマンスの絶対値そのものは、クイーンカップもNHKマイルカップも同じくらいだった、と言えるのではないか。
自身の絶対的なパフォーマンスを発揮して頂点に上り詰めたマイル女王。いつかその座につくであろう「絶対女王」とは少し意味が異なるが、現時点でも、3歳牝馬としてはケタ外れに強いことは間違いない。