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派手に喜ぶ選手と、落ち着く長谷部。
多様性こそがブンデス残留を導く?
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byGetty Images
posted2016/04/26 10:40
ブンデスリーガでの出場は200試合を越え、残留争いの末の残留も降格も経験した。長谷部誠ほど土壇場で頼りになる男はそういない。
喜ぶ選手たちの中で、ひとり冷静だった長谷部。
また、怪我人の異常な多さにも悩まされている。マインツ戦を怪我で欠場した選手が9人、その試合でも負傷交代を強いられた選手が2人いた。
残留を目指すフランクフルトにとって、課題は山積みだ。しかし改善しなければ、1部残留という目標は達成されない。
しかし、フランクフルトに希望がないというわけでもない。
印象的だったのは、試合後の選手たちのリアクションだ。
試合終了のホイッスルがなると、長谷部は右こぶしを振り、小さくガッツポーズをした。それだけだった。ゆっくりと両足の靴ひもをゆるめると、チームメイトとハグし、相手チームの選手と健闘を淡々とねぎらった。
一方で、ルスは涙を浮かべ、ベン・ハティラは喜びを爆発させていた。彼らと比べれば、むしろ長谷部の姿勢が異質だったのだ。試合後に記者の前に姿をあらわしても、喜びや安堵を感じさせるようなそぶりはなく、冷静に課題をあげて解決策を口にしていた。
長谷部はフランクフルトにおいて、成果に至る正しい「プロセス」を重視する選手だ。
しかし、手に入った小さな結果そのものが、――たとえ過信に近いものであっても――自信となり、その自信がさらなる結果をたぐりよせることもある。ルスやベン・ハティラの様子は、まさにそのポジティブな循環の始まりを予感させた。
喜ぶ者と落ち着く者。この相互作用に期待したい。
長谷部は残留争いに巻き込まれている現状について、こう語っている。
「残留争いはこれが3度目かな。ヴォルフスブルクのときには残留しましたけど、ニュルンベルクのときは怪我をして、後半戦は最後の1試合しか出ていなかった。でも、今回は基本的にはずっと試合に出ている。『良い経験になっている』と言ったら軽く聞こえてしまうかもしれないけれど、こういう状況にしっかり、真摯に向きあって自分のなかでやれるかどうか。それはある意味で、これからの自分に跳ね返ってくるかなと思いますから」
真摯という言葉を超越して、愚直なまでに課題と苦難とも向き合い、その解決策を探る長谷部の姿勢は、どこまで行ってもブレることはない。
手にした勝利に喜びを爆発させる選手と、長谷部のように落ち着いている選手。この両者が共存している事実が、残留を目指すフランクフルトにとって大きな意味を持ってくるのかもしれない。