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「テクニックという言葉は使わない」
オランダ発、サッカー再定義の潮流。
posted2016/04/11 10:30
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph by
Getty Images
「オランダサッカー協会では、テクニックという言葉を使うのをやめて、『サッカーのアクション』という用語に統一しました」
白井裕之(アヤックス育成アカデミーのユース年代専属アナリスト)
元祖・育成大国の逆襲が始まるかもしれない。
昨年6月、オランダサッカー協会(KNVB)はある方針を発表した。オランダの育成の優位性が弱まったことを認め、これからは他国の取り組みにも目を向けることを決めたのだ。
同協会のテクニカルマネージャーのイエレ・フースは会見でこう語った。
「過去10年、15年は世界から多くの人がオランダを訪れ、私たちがどうやって練習し、タレントを育てているかを学んだ。分け隔てなく知識をシェアしてきた。だが同時に国内で、ノウハウを簡単に教えることへの批判があったことも確かだ。その声が正しかった部分はある。今度は私たちがキャッチアップする番だ」
ノウハウを吸収した隣国が育成大国に。
オランダは'80年代以降、アヤックスを中心に育成大国であり続けてきた。ミケルスやクライフの哲学にファン・ハールの合理性が加わり、アヤックスの育成アカデミー「トゥーコムスト」(オランダ語で未来の意味)は世界の最先端に立った。
オランダ人が尊敬されるべきは、そのノウハウを惜しみなく他国に開放したことだ。特に隣国のドイツとベルギーの関係者は熱心に足を運び、育成の大改革を行った。
ただし皮肉なことに、気がつくとオランダ式をうまくアレンジしたドイツとベルギーに育成大国の座を奪われてしまった。両国から次々にタレントが生み出される一方で、オランダは深刻なタレント不足に陥った。
ユーロ2016の予選では、序盤にチェコとアイスランドに敗れ、昨年10月の最終節で再びチェコに敗れて敗退が決まった。出場枠が16から24に増えたにもかかわらず、ユーロへの出場権を得られなかったのだ。2014年W杯は5バックによるカウンター戦術を使い、ロッベンとファンペルシを生かして何とか3位になったが、もはや世代交代の遅れをごまかせなくなっている。