相撲春秋BACK NUMBER
白鵬が浴びた大阪のシビアなヤジ。
「銭の取れる相撲」に値しない千秋楽。
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph byJMPA
posted2016/04/05 11:00
白鵬はこれで4場所ぶり、36度目の優勝。自身の持つ史上最多優勝記録を更新した。
曙や武蔵丸の「プロの仕事」。
ネットでの関連コメントを見ると、「しょせんモンゴル出身の横綱だから」「日本の大相撲という伝統文化を理解できない。横綱失格だ」等々、ヤジ以上に辛辣な意見が散見される。「モンゴル人だから差別されている。可哀想」と国籍を持ち出して同情し、短絡的にその一点に収れんさせてしまう“にわか相撲ファン”の言葉も多くあった。
思えば「モンゴルに帰れ!」とのヤジは、かつてのお騒がせ横綱、朝青龍にも浴びせられていたことがある。圧倒的な強さを誇りながらも、その粗暴な言動や土俵上の不遜な態度に、拒否反応を持つファンも多かったのだろう。
しかし、初の外国人横綱の曙、続く武蔵丸に対して日本人の判官贔屓はあったものの、ここまで露骨なヤジはなかったと記憶する。それは人気絶頂の若貴に対峙するヒール役とされながらも、横綱として正々堂々と真正面からぶつかり合い、手に汗握る大相撲を――プロの仕事を見せつけてくれていたからだ。
「稀勢の里関も変化があったから……」
優勝一夜明け会見で、結びの一番の変化について問われた白鵬は、
「8カ月ぶりに賜杯を抱きたい気持ちが出てしまった。それまでいい相撲を取っていたから、最後がああいう形になってしまって自分自身が悔しい」
そう口にし、前日の支度部屋で発した「稀勢(の里)関も変化があったから、これで文句は言われないでしょう」との言葉を、この日も繰り返していた。
「稀勢の里関もそうだったから、もう(周りは)あまり言えないでしょう? 勝負だからね」
九日目の琴奨菊戦で珍しく注文相撲を取った稀勢の里を引き合いに出した。番付に関わらず、けして褒められたものではないが、稀勢の里は格下の大関である。白鵬のこの言葉には「はたして最高峰の横綱として、その自覚はあるのだろうか」と、疑問符がついた。「日本人である稀勢の里も同じことをやったのに、自分だけ責められるのはおかしい」と、受け止められかねない文言だった。これは「自分がモンゴル人だから周囲の目が厳しいのだ」との「偏見」「被差別意識」を自身が持っている、その証左となってしまうのではないだろうか。