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五輪選考会を4度体験した者として。
伊藤華英が語る北島康介と萩野公介。 

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伊藤華英

伊藤華英Hanae Ito

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posted2016/04/03 11:00

五輪選考会を4度体験した者として。伊藤華英が語る北島康介と萩野公介。<Number Web> photograph by AFLO

2月のコナミオープンで上々の仕上がりを見せた萩野公介。まずは日本選手権で確実に五輪出場権を獲得したい。

「水泳人生を懸けたオリンピックはこれが最後」

 当時のように2種目で金メダル、というのは確かに難しいのかもしれない。しかしたとえ当時と違う形ではあっても、日本競泳界で圧倒的な存在感を示す北島選手には、つい期待してしまう。

 今年に入ってレベルの高いレースを続けている、とくればなおさらである。

 2月のコナミオープンでは、100mで1分00秒57で2位。200mでは2分10秒31で4位。平井コーチは、200mは「9秒台でいけたはず」と話していた。つまり、メダルを競う実力が今の彼には備わっているのだ。

 スペインのグラナダ高地へ合宿に出発する前に「水泳人生を懸けたオリンピックはこれが最後」と本人が口にしていた。私はこの言葉を聞いた時に胸が苦しくなり、目頭が熱くもなった。日本を牽引し続けてきた選手の本気の泳ぎを見られる時間は、そう長くは残されていない。

 どこまで世界に近づけるか。高地合宿の成果が大変楽しみだ。

 しかし、彼のモチベーションは何処にあるのか。一度ならず二度までも世界の頂点に立った選手が、その座を失ってなお挑戦を続けるのは、並大抵のことではないはずなのに。

 あるインタビューでライアン・ロクテ選手は、「沢山のメダルや記録を出し続けている今のモチベーションはどのようなものですか?」と聞かれた時、「僕はいつでも満足しないんだ。しかも絶対に」と応えていた。北島選手もそのような境地に達しているのだろうか。

 彼の精神力や人間性に私たち後輩は散々刺激を受け、大げさでなく人生の恩人だと思っている。今彼と一緒に泳ぐ選手たちは、その存在を肌で感じて、そしてできるならば北島選手を越えて行って欲しいと思う。

世界ランク1位の萩野公介はどこまで戻っているか。

 そして新陳代謝が活発と言われる競泳界には、若手のエースが沢山いる。

 その中でも、今年が飛躍の年になりそうなのは萩野公介選手だ。

 昨年は不意のケガで世界選手権を欠場という結果になったが、今も400m個人メドレーでは世界ランキング1位に君臨している。「少しずつ感覚も戻ってきている」と本人の手応えも悪くなさそうだ。

 ライバルの瀬戸大也選手は既にオリンピックの出場権を獲得しているが、だからと言って日本選手権で手を抜くことは考えづらい。瀬戸選手は200m個人メドレーと200m自由形での出場を発表しているので、萩野選手には日本記録の更新はもちろん、瀬戸選手との戦いに向けて、昨年の悔しさをぶつけて欲しい。

 ロンドン五輪で日本は過去最高のメダル数を記録したが、初日に萩野選手が400m個人メドレーで銅メダルを取ってチームがすごく元気になったのを覚えている。彼は繊細だと言われるが、自分を信じて情熱を外に出せれば、いい結果が期待出来る。

【次ページ】 五輪の選考会を4度経験した人間として。

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