F1ピットストップBACK NUMBER
F1開幕戦で堪能できた高度な情報戦。
フェラーリとメルセデス、至高の戦略。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2016/03/27 11:00
現在のF1では、ドライバーがレース戦略を考えるのではない。チームのストラテジスト(戦略担当スタッフ)が膨大なデータをもとに考えているのだ。
メルセデスはチームの2台に別々の作戦を敷いていた。
しかも、このときメルセデスAMG陣営は2台に別々の作戦を敷いた。
フェラーリ勢に続く3番手を走行していたロズベルグにはスーパーソフトよりも少し硬いソフトタイヤを、5番手まで落ちていたハミルトンにはオーストラリアGPに持ち込んでいたタイヤの中で、もっとも硬いミディアムタイヤを装着させた。メドウズはその選択を次のように説明する。
「ニコは2回ピットストップでフェラーリに逆転し、ルイスは1回ピットストップで表彰台に上がらせるつもりだった」
だが、勝負は急展開を迎える。
17周目にフェルナンド・アロンソとエステバン・グティエレスが大クラッシュし、赤旗中断となったのである。
16時35分に中断されたレースが再開されたのは16時55分。中断されていた20分の間に、チームは再開後に履くタイヤを自由に選択できる。果たして、メルセデスAMGとフェラーリの選択は分かれた。
中断された時に2番手と7番手にいたメルセデスAMGがミディアムでチェッカーフラッグまで走りきる作戦に出たのに対して、トップと3番手という好ポジションにいたフェラーリはユーズドのスーパーソフトを装着したのである。
フェラーリの選択は間違えていたのか?
残りは39周もあったが、すでに16周目にピットインしていたハミルトンがミディアムに履き替えて、1ストップに切り替えていたことを考えれば、18周目に中断されたこのレースで、再スタート時にミディアムを履いて最後まで走り切るという作戦は定石である。それは、再スタートを切った18人中、11人がミディアムタイヤを装着していたことでもわかる。
では、フェラーリは戦略的ミスを犯したのだろうか。
「そうではない」とメドウズは分析する。
「再スタート時にフェラーリ勢がミディアムを履いてこないことは予測していた。なぜなら、彼らはテスト時からミディアムタイヤのウォームアップに問題を抱えていたからね」