F1ピットストップBACK NUMBER
F1開幕戦で堪能できた高度な情報戦。
フェラーリとメルセデス、至高の戦略。
posted2016/03/27 11:00
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Hiroshi Kaneko
21世紀に入ってからのベストレースを挙げるとしたら、あなたは何を選ぶだろうか。
2005年と2006年の2年連続でのフェルナンド・アロンソ対ミハエル・シューマッハのテール・トゥ・ノーズのバトルだろうか。
2005年の日本GPでのライコネンの大逆転劇も興奮したし、最終戦の最終コーナーでタイトルが決着した2008年のブラジルGPはいま見ても鳥肌が立つエンディングである。
そのほか、日本人としては、2004年アメリカGPでの佐藤琢磨の表彰台や、2012年日本GPでの小林可夢偉の表彰台も忘れられない。
しかし、私は最近のF1でベストレースをひとつ挙げろと言われれば、迷わず2010年の最終戦アブダビGPを推す。
理由は、ランキング上位4人にタイトルの可能性が残された最終戦は、単にドライバー同士の戦いだけでなく、チーム同士もさまざまな駆け引きを行い、戦略が勝負の綾となったレースだったからである。
今年の開幕戦、オーストラリアGPもそんなレースのひとつだった。
最終的にニコ・ロズベルグ、ルイス・ハミルトン、セバスチャン・ベッテルという順位で収まったが、そこに至るまでには濃密な勝負の駆け引きがあった。
フェラーリとメルセデスの知略が火花を散らす!
レースはスタート直後に1-2体制を築いたフェラーリと、予選でフロントロウを独占しながら出遅れたメルセデスAMGの対決となった。
次にレースが動いたのは、1回目のピットストップだった。フェラーリはトップのセバスチャン・ベッテルと2番手を走行していたキミ・ライコネンに、スタート時と同じスーパーソフトを装着させる。このスーパーソフトは前日の予選のQ3で、メルセデスAMG勢が2回行ってフロントロウを独占したのに対して、タイムアタックを1回しか行わずに温存しておいたタイヤだった。もちろん、そのことはメルセデスAMG陣営も把握していた。
「フェラーリがその新品のスーパーソフトで来ることは予想していたから、われわれは1回目のピットストップで別の戦略を採った」(ロン・メドウズ/メルセデスAMGチームマネージャー)